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「北国の人工授精師日誌(12)」

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2010年11月30日

〜 性判別精液について 〜

 またまた真面目なお話に戻ります。今までで1番授精師らしさを発揮しているんじゃないでしょうか(^▽^)という内容です。・・・地元コラムの前にやれば流れも良かったんですけどねぇ。んでは、気を取り直して・・・。

 繁殖牛を持っている方でしたら、「性判別精液」というのを耳にされた事があると思います。特に搾乳牛(ホルスタイン・ジャージー・ブラウンスイス)では後継牛(=女のコ)がおらんと話にならん、ということで雌性判別精液(長いので『X精液』と呼びます)が作られています。性判別と名づけられているので、これで女のコが生まれるね!と思ってしまう所ですが、このX精液は100%♀が生まれるわけではなく、約9割の確立で♀が生まれるのです。なので、X精液を授精したのに♂だったという事もありえます。ついでですが「性判別受精卵」は、受精卵そのものを調べるので100%ですよ。

 ただこのX精液も欠点というか使用上の注意(?)があります。もともと全ての種雄牛からX精液が作られる訳ではなく、成績が優秀なことはモチロン、精子の数や活力の優れているものに限られます。そして、性判別の機械にかける時のダメージにより、受胎率も通常精液のものより低下します。私らの管内では、未経産で3割ちょい。繁殖面で優秀な牧場でも4割いけばよい方です。ですので、どこの精液会社もそうでしょうが、未経産牛への授精を推奨しています。ですが、特に搾乳牛では経産で成績が分かっているコから採卵してみたいですよね。以前、X精液を採卵時に使用した事もありますが(その時は経産牛でした)、卵は多数回収できたものの、ほとんどが未受精卵や変性卵でした。ですが何年も前の話ですし、今は採卵用のX精液もあるので(昔もあったのかなぁ?)、違う結果が出るかもしれません(^^)あとはX精液の値段ですが、通常精液の倍くらいです。6,000〜10,000円程度が多いと思います。

 あとは牛の発情徴候や状態なのですが(^^;)私らの管内では本州から育成牛を預かり、孕みにして本州へ戻すという「預託農家」さんが何件かあります。実はX精液は管内の牛への授精よりも、この預託牛への授精が多くなっています。初回はX精液を!とよく頼まれているらしいのですが、そこでちょっと問題が・・・(>_<)様々な農家さんから牛が集まってくるのですが、中にはちと未熟な牛もいて、月齢の割には体高・幅もなく、直検したら生殖器もち〜っちゃい(;_;)そういうコにX精液を授精してと言われても、ちょっと一度とばして次回にしませんか?となってしまいます。はたや隣には月齢にみあった発育で、外部徴候も生殖器もバッチリ!このコもX精液かな?と思っていると、「ここの農家さんは黒毛授精だから〜(^^)」と言われ、心の中では「こっちのコに授精したいなぁ(σ_σ)」と思う事もしばしば。しかも最近では上のようなちょいこじけた牛に発情がきても「どうせとまらない(受胎しない)から、授精しちゃって〜!」と言われてしまいます(;_;)その裏には色々な理由があるんですが、農家さんと「なんだか切ないですねぇ(._.)」と会話しながら授精しています。牛は哺乳時期が肝心だと言いますし、預託農家さんにいる間の限られた時間で「牛をつくる」のはほぼ不可能だと思います。預託農家さんは毎日発情確認をし、時には治療で獣医師を呼び、我が家の牛のようにお世話をしています(^^)なので、預かり元の農家さんにも、ちゃんと成長(中身も含めて)して、適齢の授精ですぐ受胎するような牛を持っていくぞ!!という意識を持っていただけたらなぁ・・・と思います。あ、言い方が悪いですが、全体的にそうではなく、一部の牛ですからねm(_ _)m

 ちなみに、黒毛和種の雄性判別精液(Y精液)も何種類か作られています。値段も5,000〜10,000円くらいで、受胎率などはホルスタイン種とあまり変わらないとのことでした。雌雄の産み分けには、卵子側だの飼養管理や環境だの、様々な要因があると言われています。その中でほぼ希望通りの性別が生まれるという点においては、やはり魅力的ですよね。X精液について授精中によく聞かれますが、値段を聞いてやっぱや〜めた(>へ<)という農家さんもおられます。搾乳牛でも黒毛和種でも、受胎率と値段、それと授精対象牛の状態を考えて、試してみる価値は充分にあると思います(^▽^)

ぴよこ@北国

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