(有)シェパード[中央家畜診療所]がおくる松本大策のサイト
松本大策のコラム
トゥルペレラ?

コラム一覧に戻る

2017年8月7日

 みなさん、トゥルペレラって聞いたことがありますか?バイ菌の名前なのですが、とくに細菌学の分野では、分析方法が日々発達しすぎて、名前とかどのバイ菌の仲間か、とかしょっちゅうころころ変わるんですよ。もうオジサンついて行けない(怒)!

 このトゥルペレラ・ピオゲネーシスというバイ菌はとてもありふれたもので、みなさんだってどこかでお目にかかっているはずです。みなさんの記憶にある名前はアクチノバチルスでしょうか。僕らオジサンは、コリネバクテリウムと教わりました。だから、年配の獣医さんは、化膿巣を見ると「コリネだ、コリネだ!」と呼ぶのです。まあ、僕らオジサン組は「アクチノバチルスでしょ?」と知った風な口をきくのですが、その後、このバイ菌は「アルカノバイクテリウム」と名前を変え、そのすぐ後に「トゥルペレラ」と改名されました(どこかの飲み屋じゃあるまいし!)

 牛さんのほほや顎、肩口などに出来やすい腫れたヤツ(写真1)。あれがトゥルペレラによる化膿巣です。しかし、診断は少し慎重にしましょう。まず、その腫れた塊を掴んで、上下左右に動かしてみます。骨から離れているなら、ほぼトゥルペレラと思って間違いがないので表面を触って、薄そうな部分を切開し排膿させます。大きな塊の時はバケツ1杯くらい膿が出ることもあります。その後は、内部をよく洗浄・掻爬してヨードガーゼを充填し、数日繰り返すと治ります(写真2)。


写真1


写真2

 でも、もし骨の中から発生しているようなら獣医さんに見てもらい、たいていはそのまま何もせずに放っておくのがよいと思います。こちらはアクチノマイセスといって別のバイ菌なのです。昔は、骨の中にペニシリンを一滴入れたら治る、とかヨードカルシウムの注射が効く、とか言っていたのですが、さすがに抗生物質などにも耐性が出来ていて、僕の経験では、治療期間中は治まるけど、治療を中止すると以前より悪くなってしまう、というタチの悪いバイ菌です。中には牛さんの顔が倍近く膨らんだ事例もあります(谷口君、あのときはごめんね)。いずれにせよ、化膿巣があるときはしっかり診断を付けてから処置しましょう。

|