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松本大策のコラム
起立不能のお話 その2

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2017年5月15日

 さて先週から起立不能の診断のお話を書いていますが、他に診る場所としては、体温と皮温です。体温の低下および皮温の低下が診られたら、血液中のカルシウムの低下を疑います。ただ、肥育牛の場合は、カルシウム欠乏では強直性の痙攣を起こし、しばらくすると何事もなかったように立ち上がるというケースが多いのも頭に入れておきましょう。繁殖牛の産前産後は必ず疑うべき症状です。ちなみに肥育牛の重度のビタミンA欠乏時は脳や脊髄の浮腫が起こって強直性痙攣を起こすことが多く、この場合僕の経験では回復したことがありません。すぐに食肉処理場に回します。

 次に皮温の不整(触る場所で皮膚の温度が異なる状態)が診られる場合があります。これは自律神経の失調の際によく出る症状で、結果的におなかが痛くなって(腸が痙攣を起こすんです)立てないことがあります。ですからこのときは、おなかを触診したり聴診したりして腹痛があるかどうかを慎重に調べます。

 それから、骨を折っていたら当然立てない場合もありますから、四肢とも慎重に骨折の有無を調べます。前肢の場合、骨折の他に肩を開いて肩甲骨の下の筋肉を損傷している場合もあるので、慎重に圧診も行います。後肢の場合、触れる骨以外でも大腿骨頭外科頸という部分の骨折や、股関節脱臼も調べなくてはいけません。これは股関節付近に聴診器を当てて後肢を動かしたときの異音(挫滅音とか捻髪音ともいいます)を聞くとわかりやすいです。子牛だと、股関節脱臼で大腿骨大転子という部分が腰の平たいところから飛び出して見えるので診断がラクなのですが、大きい牛さんではそういう所見が見えないことが多く気をつけなければなりません。

 さて他にもケースごとに気をつけなければならないことがあるのですが、一点だけ見落としが多い注目点についてお話ししましょう。それは尿石症です。しかも、すでに膀胱が破裂していることも多いのです。この場合は、皮温の低下や不整、発汗なども見られます。まずは試験紙でBUNという項目(尿毒)を調べます。それから尿が出ているかをきちんと確認して、症例ごとに月齢や体重などを考慮して、オペをするか出荷するか、速やかに判断しなければなりません。とにかく起立不能の時は、尿石症には十分に気をつけましょう。

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