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ゲストのコラム
「舞子ぷらずま☆—牧場の嫁DAYS— 第8回」

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2009年8月11日

[旅する食べ物]

エコやロハス(健康や環境問題に関心の高い人々のライフスタイル)という言葉がかなり浸透したここ最近。食や環境について意識が高いのはお洒落で素敵なことという共通認識が出来上がってきています。エコに積極的に取り組む企業が増え、いただく名刺にも「大豆インクを使用しています」「ISO14001を取得しています」などの文字を多く見るようになりました。そういえば先日、「セレブ人妻があなたに10万円支払ってウフフなことを云々…」という超怪しげなスパムメールにも「ISO…を取得しています」と書いてあって、ええええΣ(゜д゜lll)!?と驚いたことが。その艶っぽいサイトの真偽はともかく、企業の自発的な取り組みが広がっている背景には、消費者がエコに取り組んでいる企業に対して好感をもつという社会的認識があるからこそでしょう。
さて、食品業界に目を転じると「フードマイレージ」という言葉を最近よく耳にします。これは食品の「輸送量と輸送距離」の指標で、食物が輸送される際に排出されたCO2量が地球環境に与える負荷に注目するひとつの考え方です。食べ物が、消費者の口に入るまでにどれだけの距離を旅し、それがどれだけ地球に負荷をかけたかという指標は、非常に分かりやすく、社会に訴える力があると思います。よく取沙汰される「日本のカロリーベースでの食料自給率」は40%台。でも生産額ベースの食料自給率は70%です。なぜカロリーベースの食料自給率がこんなに低くなるのかというと、要因は畜産物の飼料を輸入しているから。例えばスーパーで売られている鶏卵、外国産なんて見たことありません。実際、品目別自給率は96%ですが、カロリーベース自給率は9%。これは飼料の自給率が9.7%しかないから、「飼料から純国産のメイドインジャパン卵です!」と言えるのが9%まで減ってしまうということ。前述のフードマイレージにも飼料の旅行程がもちろん含まれますので、自給率と環境、双方の観点から畜産物の飼料を国産に!という潮流が、これからより大きくなるのは必至だと思います。
その点、私たちが飼育している牛さんは、そんな畜産事情の中でもちょっと特殊。品目別自給率は39%と、豚肉53%、鶏肉67%に比べて低いのですが、飼料自給率は26.2%(豚肉・鶏肉は9.7%)。よって、カロリーベース自給率も10%と、畜産物の中で唯一2ケタ台をキープ。これは、牛が基本的に草で飼育できる動物だからです。もちろん日本人の嗜好に合った肉を作るために、濃厚飼料を与えての管理は必須なのですが、畜産物の中では、地産地消やフードマイレージといった意識の高まりに合わせた新しい商業ニーズに乗りやすいことは明らかです。飼料の輸入は、コスト面でも、世界単位でなら適地適作面でも合理的でした。日本の狭い畑で連作障害と戦いつつとうもろこしやら大豆やらを作ってもアメリカに勝てるはずがない。でも、エコがここまで社会的に根付いたことを思えば、食料自給率の問題意識とフードマイレージも浸透するでしょう。日本の牛は「やっぱ地産地消だよね、だから肉を食べるなら国産牛か和牛だよね」という選択肢になる力が、今でもあると思います。だから、休耕田での放牧、おからサイレージや梅酒の梅などの飼料給与など各地で耳にする新しい取り組みを、ことあるごとに地道に発信していきたい。今はまだ採算ベースにのらなくても、時代と社会がそれを求めるときがきっとやってくると、そんな気がするのです。

(つづく)
著:黒沢牧場 上芝舞子

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