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戸田克樹のコラム
第123話「薬が効かない耐性菌③」

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2017年2月7日

昨日、笹崎獣医師が「これ、農家さんからです!」とこれを手渡してきました。

低体温症でぐったりした子牛に、当時身に着けていた自前のネックウォーマーを防寒具として着けたことがあったのですが、それのお返しとのことでした。すっかり忘れていましたが、農家さんの気遣いにほっこりした次第でした。ちなみに、その子牛は当時のものを首に巻いたまま元気に駆けまわっております(笑)。
 
 
抗生物質のβラクタム環を壊すことのできるβラクタマーゼをもつ細菌への対抗策は、そのβラクタマーゼのはたらきをジャマする薬を同時に使用すること。βラクタマーゼ阻害薬といわれ、「クラブラン酸」や「スルバクタム」といったものが代表例です。

これら自体に細菌をやっつける力はありませんが、βラクタム構造が破壊されることがなくなるので、抗菌力が消失することなく細菌に効くようになります。
細菌が抗生物質のはたらきを打ち消そうとするのをやめさせることができるのです。

しかし、残念ながらどちらの薬も日本では動物用医薬品としての認可がおりていません。
EUやオーストラリでは牛さんにも使用されているのですが。トホホ…。

たとえば、こうした阻害薬を使用することなくβラクタム系の抗生物質を使用しつづけるとどうなるでしょうか。

その抗生物質が効く細菌はどんどん死滅していきます。そして、薬が効かない細菌はどんどん増えていきます。ライバルがいなくなった分、むしろ活発に活動し増殖を初めてしまうかもしれません。体調を悪くした原因となる細菌がその抗生物質の効くものであれば問題はありません。しかし、病気の原因菌が薬の効かないものであった場合は大問題です。

薬の効かない細菌が生き残り、他の細菌は死滅していく。体は病気ですから、うまく免疫機構もはたらいてくれない…。抑えるものがない世界で彼らはどんどんと増えてしまうのです。

こうして、薬剤耐性菌という名の新たな強敵が出現するわけです。
今までの薬が効かないわけですから、新たな薬を作っていかざるをえません。
人類と薬剤耐性菌とのたたかいの歴史はこうして始まったのでした。

では、βラクタム系以外の抗生物質についてはどのような耐性メカニズムがあるのでしょうか。

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