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蓮沼浩のコラム
第882話:構造変化が起きている

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2026年6月30日

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ここ最近、繁殖農場や肥育農場の往診やコンサルを回っていて、ここ数年以前とは現場の空気が変わってきたと感じます。もちろん子牛価格や枝肉価格が変動していることもありますが、それ以上に大きいのは、肉用牛業界そのものの構造が変わり始めているということです。まあ、これは昔から言われていたことですが、現場ではっきりと目に見える形でわかるようになってきています。

その変化を最も象徴しているのが、農家さんの戸数の減少です。この傾向は決して今に始まったことではありません。しかし、ここ数年は減少のスピードが非常にわかりやすくなってきています。家畜改良センターさまのデータをもとに、令和6年4月末から令和8年4月末までの黒毛和種飼養施設数を集計してみました。こんな感じになります。

令和6年4月には全国で37,131戸あった飼養施設が令和8年4月には32,290戸まで減少していました。わずか2年間で4,841戸が姿を消し、減少率は2年間で13.0%になります。年間にすると約6~7%という非常に速いペースで農家さんが減っている計算です。ただ数字だけを見るともしかしたら「少しずつ減っている」と感じるかもしれません。しかし、現場に立っている小生には、この数字以上の変化が起きているように見えます。なぜだろうか?

そこで各都道府県別の減少率もグラフを作ってみました。

千葉県や秋田県などが上位に並び、九州は宮崎県が上位に入る程度で、一見するとそれほど大きな問題には見えません。ところが、実際の減少戸数を見てみると全く違う景色が見えてきます。

小生の住んでいる鹿児島県が全国で最も多く、続いて宮崎県、熊本県、長崎県、大分県、沖縄県と、九州・沖縄地方が上位を占めています。つまり、減少率だけでは見えてこない、「日本の和牛産地そのものが縮小している」という現実が浮かび上がってきます。

地域別に集計してみても同じ傾向が見られます。東北地方は減少率15.8%と全国でも最も高く、四国も15.5%と急速に黒毛和牛の農家さんが減少しています。一方で九州・沖縄は減少率こそ12.8%と全国平均に近いものの、実際に減少した戸数は2,303戸と全国最多でした。全国で減少した4,841戸のうち、実に半数近くが九州・沖縄だけで占められています。

小生はこの数字を見て、改めて「日本の和牛生産の構造が変化し始めている」と感じました。これは一地方の問題ではなく、日本全体の和牛生産能力に関わる大きな構造変化だと思います。小生が感じていたのはこの減少戸数が大いに関係してそうです。だって鹿児島県は減少戸数が1位だもん。

では、なぜここまで急速に農家さんが減っているのでしょうか。

理由は一つではありません。まず大きいのは、高齢化と後継者不足です。以前から問題視されてきましたが、いよいよ「あと数年頑張る」と話していた世代が、本当に離農する時期に入ってきました。小生が長くお世話になってきた農家さんも、皆さん体がボロボロです。本当に頑張っていらっしゃいます。ひたすら尊敬です。たださすがに年には勝てません。

さらに、令和4年から令和6年にかけて続いた厳しい経営環境の影響も大きいと思います。繁殖農家さんも肥育農家さんも、これまで経験したことのないほど厳しい経営を経験しました。その間に失われた資金力や経営意欲は、子牛価格や枝肉相場が多少回復した程度では簡単には戻りません。

また、以前であれば近隣の農家さんが離農すると、「牛舎を借りて規模を拡大しよう」という動きが多く見られました。しかし最近では、「自分もこの機会に辞めよう」という話を耳にすることが増えています。人材不足や資材価格の高騰、設備投資への不安、金利上昇なども重なり、将来への投資よりも撤退を選択する経営者が増えている印象です。

ただ一方で興味深いのは、農家さんの戸数ほど牛さんの頭数は減っていないことです。
これは離農した農家さんの牛を、比較的大規模な農場が引き受けているためです。つまり現在の肉用牛業界では、「戸数は減るが頭数はある程度維持される」という状態が続いています。言い換えれば、小規模経営が減少し、生産が大規模経営へ集約されているということです。しかし、この状態が永遠に続くとも思えません。

大型農場にも、労働力、粗飼料の確保、牛舎、資金、堆肥処理、そして管理能力という限界があります。特に最近は粗飼料不足や人材不足を相談される機会が急速に増えています。今は何とか大型経営が全体を支えていますが、これ以上農家さんが減少すれば、その受け皿も徐々に限界に近づいていくでしょう。

私は今後5年間が、大きな転換期になると考えています。

まず数年間は、大規模農場への集約がさらに進み、戸数の減少に比べて牛さんの頭数は比較的維持されるでしょう。しかし、その後は大型農場も収容能力や人材確保の限界を迎え、全国の繁殖雌牛頭数が本格的に減少へ転じる可能性があります。繁殖雌牛が減れば数年後には子牛の供給頭数も減少し、需給バランスが大きく変わってくるのではないでしょうか。受精卵移植の普及がカギを握っているようにも思います。

肉用牛産業は「成長を目指す時代」から、「維持し、生き残る時代」へと移行し始めているのだと思います。構造変化は確かに進んでいますが、だからこそ残る経営体には大きなチャンスがあります。競争相手が減る一方で、生き残るためには経験や勘だけではなく、データを活用し、疾病を予防し、繁殖成績や肥育成績を数値で管理し、世界情勢や飼料価格の変動まで見据えた経営が求められる時代になります。
これからの肉用牛経営は、「牛を上手に飼う技術」だけではなく、「経営を科学する力」をふくめた総合力がこれまで以上に重要になっていくでしょう。

和牛産業は今、大きな転換点に立っているように思います。
この構造変化は、おそらく今後も続きます。そして、この数年間にどのような経営判断をしたかが、10年後に生き残っている農場と、そうでない農場を分けることになるのではないでしょうか。小生は現場を回るたびに、そのような時代の入り口に立っていることを、強く実感しています。

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