2026年6月16日 *********************************************************** もちろん、こうした考え方は偽善的であり、綺麗事に聞こえるかもしれません。「理想論だ」「現実はそんなに甘くない」と言われることもあるでしょう。しかし、たとえ綺麗事であったとしても、自分の行動原理の中心には常に「農家さんにとって何が最善か」「牛さんにとって何が最善か」を置きたいと未熟者ですが、いつも思っています。 そして、もう一つ大切にしていることがあります。それは「美」を意識することです。美というと、美しい景色や芸術作品を思い浮かべるかもしれません。しかし、小生が言う美とは少し違います。牧場には泥があり、糞があり、ワラ屑が散乱したりしています。診療車も決してきれいで格好の良いものではありません。小生自身も美男子とは程遠い、こきたないオッサンです。それでも、そのような環境の中で、自分の診療だけは美しくありたいと思っています。 診察の動きに無駄がないこと。 そうした一つ一つの積み重ねの中に、美しさが宿るのではないかと思っています。小生は長年、剣道や居合道などの武道を学んできました。師匠からよく言われた言葉があります。 「蓮沼さーん!! 最後は『美』やっど!!」 若い頃は、強さこそが大切だと思っていました。速く動けること、力が強いこと、技が決まること。それが武道の価値だと思っていました。しかし年月を重ねるにつれて、それだけではないことが分かってきました。本当に優れた技には無理がありません。力みがありません。見ている人に自然と感動を与えます。立ち姿、歩き方、礼の仕方、刀の納め方。その一つ一つに人格や生き方が現れます。武道ではこれを「様式美」と呼ぶことがあります。 実は獣医療にも同じことが言えるのではないでしょうか。診療技術だけではなく、その人の人間性が診療の中に現れる。間違いなく産業動物獣医療の中にも様式美があると思っています。 焦っている人の診療はどこか慌ただしい。 つまり、診療の美しさとは技術だけではなく、人間としての成熟度そのものなのだと思います。本当に難しいですね~~~~。このことについて考えるとき、小生はいつも、「人生において本当に大切なことは、知識や能力ではなく、人間力である」と繰り返し自分に言い聞かせています。 知識は年齢とともに増えていきます。技術も経験とともに向上します。しかし、それだけでは人の心を動かすことはできません。人間としての深さや温かさ、謙虚さ、感謝の心があって初めて、その知識や技術は生きてきます。ある方が「仕事とは自己実現の場であると同時に、人間成長の場である」と語っています。獣医療も同じだと思います。病気を治すためだけに仕事をしているのではありません。農家さんとの出会いを通じて学び、牛さんたちから学び、失敗から学び、自分自身を磨いていく。仕事とは、社会に貢献すると同時に、自分自身を成長させる修行の場なのだと思います。 「真のプロフェッショナルとは、技術の奥に思想を持っている人である」という考え方。 単に治療が上手いだけではなく、なぜその仕事をするのか。誰のためにその仕事をするのか。 小生もまだまだ未熟者です。診断を間違えることもあります。判断に迷うこともあります。思うような結果を出せないことも多々あります。しかし、少なくとも自分はこう考え、この牛さんのために、この農場のために最善と思う選択をしたのだと胸を張って言える診療を続けたいと思っています。これが獣医師としての誠実さであり、ある意味での「美」なのかもしれません。近年、獣医療を取り巻く環境は大きく変化しています。人手不足、経営環境の悪化、情報過多の時代。若い獣医師の皆さんも多くの悩みや不安を抱えていることでしょう。しかし、焦る必要はありません。知識や技術は時間をかければ身につきます。それよりも大切なのは、「どのような獣医師になりたいのか」という志を持ち続けることです。 農家さんに信頼される獣医師。 新たに獣医師として歩み始めた若い先生方に、心からエールを送りたいと思います。 |
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