2026年5月12日 *********************************************************** 今回公表された令和5年次(確定値)のデータでは、人工授精の延頭数は、乳用種×乳用種(通常)が344,756頭、乳用種×乳用種(選別)が191,281頭、乳用種×肉用種が262,724頭、肉用種×肉用種が332,145頭となっており、合計すると約113万頭という極めて巨大な規模になります。これに対し、体内受精卵移植は、乳用種×乳用種が3,514頭、乳用種×肉用種が43,744頭、肉用種×肉用種が18,283頭で合計約6.5万頭。さらに体外受精卵移植は、乳用種×乳用種が2,395頭、乳用種×肉用種が21,162頭、肉用種×肉用種が2,420頭で合計約2.6万頭でした。 この数字を並べてみると、日本の繁殖構造が非常によく見えてきます。人工授精は100万頭を超える圧倒的な実施頭数で、日本の繁殖の“土台”を支えています。一方、体内受精卵移植は約6.5万頭、体外受精卵移植は約2.6万頭であり、人工授精と比較すると、ET全体でもまだ1割にも満たない規模です。つまり、現在の日本の繁殖体系は、依然として人工授精が中心であり、ETはそこに付加される「戦略技術」という位置づけであることが分かります。 ここで非常に興味深いのは、体内受精卵移植と体外受精卵移植の頭数差です。全国レベルでは、体外受精卵移植は体内受精卵移植の半分以下の規模で運用されています。現場では「IVFが急速に増えている」という印象がありますが、全国データで見ると、依然として主流は体内受精卵移植です。受胎率を比較すると、体内受精卵移植は46〜49%前後で推移しているのに対し、体外受精卵移植は39.5〜39.6%前後です。つまり、全国平均ではIVFは体内受精卵移植よりも約7〜9%程度低い結果となっています。もちろん体外受精卵にも生卵移植があったり、農場によっては非常に高い受胎率を誇っていたりするところもありますが、この全国平均の数字は現場感覚として非常に納得感があります。 実は小生、過去に世界各国で行われている受精卵移植の実施頭数データを見たことがあるのですが、日本以外の国ではOPU-IVFが主流となっており、体内受精卵移植がほとんど行われていない結果を見て非常に驚きました。 「なぜなのだろう?」 日本ではこれほど普及している体内受精卵移植が、世界ではほとんど実施されていない。これには多くの理由があると思いますが、小生が「なるほどなあ〜」と非常に納得した理由があります。それは、“放牧”です。 「放牧??」 実は、多くの海外牧場では、日本のように繁殖牛を舎飼いしているケースは少なく、放牧主体の管理が一般的です。このような環境では、毎回牛を捕まえて過排卵処置を行い、繰り返し管理すること自体が非常に大きな労力になります。その点、OPU-IVFであれば、枠場に追い込んで短時間で卵子採取を行うことができるため、管理効率が圧倒的に高いのです。つまり海外では、多少受胎率が低くても、それを上回る「管理面での効率化メリット」が非常に大きいため、OPU-IVFが急速に普及しているわけです。ここは日本と海外で繁殖管理体系が大きく異なる非常に興味深いポイントだと思います。 また、今回のデータでもう一つ非常に面白いのは、体外受精卵移植では、「乳用種×乳用種」「乳用種×肉用種」「肉用種×肉用種」のすべてで受胎率が39.5〜39.6%にほぼ揃っている点です。人工授精では、品種の組み合わせによって比較的大きな受胎率差が出ています。しかしIVFでは差がほとんどありません。 ただし、忘れてはいけないのは、40%という数字は「60%は不受胎」という現実でもあるということです。OPU- IVFは、決して簡単な技術ではありません。その鍵を握るのは、やはりレシピエント管理だと思っています。黄体状態、栄養状態、暑熱ストレス、子宮環境。これらの積み重ねが、最終的な受胎率を決定します。つまりOPU- IVFとは、単なる受精卵技術ではなく、「農場全体の管理レベルが数字として現れる技術」なのだと思っています。ただ、どうしても成績がでないドナーも当然います。まだまだ分からないことだらけです。 今回の全国データは、これらの現実を非常によく表しています。そして、このような全国データが整備され始めたこと自体が、日本の繁殖技術にとって極めて大きな意味を持っています。今までは「感覚」で語られていた繁殖が、ようやく「構造」として分析できる時代に入りました。データがある世界では、必ず改善が始まります。比較ができ、課題が見え、技術が磨かれていくからです。おそらく今後数年で、IVFの受胎率はさらに改善していくでしょう。そしてその背景には、現場で積み重ねられた膨大な試行錯誤とデータ解析があるはずです。 世界の流れを見ていても、体外受精卵は今後さらにシェアを広げていく可能性が高いように感じています。 |
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