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蓮沼浩のコラム
第874話:体内受精卵の受胎率

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2026年4月28日

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今回は牛さんの受精卵移植、特に「体内受精卵移植(いわゆるET)」の受胎率について、全国データをもとに現場目線で掘り下げていきます。前回までの流れでお伝えしている通り、日本家畜人工授精師協会さまによる全国規模の受胎率データが整備されてきたこと自体が、繁殖管理における大きな転換点であり、このデータをどう読み解き、どう現場に落とし込むかが極めて重要になります。

さて、今回のテーマである受精卵移植の受胎率ですが、実はここは少し分析が難しい領域でもあります。その理由は、受精卵移植には「生卵移植(フレッシュ)」と「凍結卵移植」という大きく2つの手法が存在し、それぞれで受胎率に明確な差があるからです。一般的には、生卵の方が凍結・融解によるダメージがない分、受胎率は高くなる傾向にあります。しかし今回の全国データでは、この分類がされていないため、あくまで「体内受精卵移植という大きな括り」で見ていく必要があります。この点を踏まえたうえで、ややマクロな視点から評価していきます。

では、令和5年次(確定値)の体内受精卵移植のデータを見てみましょう。

乳用種×乳用種で45.8%、乳用種×肉用種で48.9%、肉用種×肉用種で46.2%という結果になっています。この数字を見てまず感じるのは、「思ったより人工授精と差がない」という点です。多くの現場感覚、特に肉用牛の現場では「ETの方が難しい」「受胎率が低い」という印象を持たれがちですが、全国平均で見れば人工授精とほぼ同水準に位置していることが分かります。これは非常に重要なポイントです。つまり、体内受精卵移植は決して特別に受胎しにくい技術ではなく、適切な条件下では人工授精と同等レベルの結果を出せる技術であるということです。

一方で注目すべき点として、肉用種×肉用種の受胎率が人工授精と比較して6.8%低いという事実があります。このあたりが、肉用牛の現場で受精卵移植は難しいと思われる要因のひとつになっているかもしれません。この背景にはいくつかの要因が考えられますが、現場的にはまず「レシピエント(受け手牛)の質」が強く関与していると考えるべきでしょう。ETは胚の質も重要ですが、それ以上に「受け入れる側の状態」に結果が大きく左右されます。黄体の状態、子宮環境、栄養状態、さらにはストレスや飼養環境まで含めた総合的なコンディションが整っていなければ、いくら良質な胚を移植しても受胎には至りません。肉用牛の世界では、なかなか人工授精で受胎しないから移植するとか、血統が悪い高齢牛に移植するなど、レシピエントに少し問題がある場合があります。産児数が4産以上になってくると受胎率が大きく落ちてくるという報告もあります。肉用牛の世界ではこのような点も大きなポイントとなってくるかもしれませんね。ここは今後、さらに詳細データ(産次、発情同期方法、栄養状態など)が蓄積されることで、より明確に構造が見えてくる部分だと思います。

今回のデータもこれまでのコラムで繰り返し述べている通り、「延べ頭数ベース」で算出されたものです。つまり、良好な個体だけでなくリピートブリーダーや条件の悪い個体もすべて含まれた、いわば“現場のリアル”が反映された数値です。この点を踏まえると、約46〜49%という数字は、日本全体のET技術の実力値と捉えることができます。そして同時に、この数字は「何も対策をしなければ収束してしまうライン」でもあります。逆に言えば、このラインを安定して上回るためには、意図的な管理と戦略が必要になります。具体的には、レシピエント選定の精度向上、発情同期の徹底、栄養管理の最適化、ストレス低減、そして何よりもデータに基づいた継続的な評価と改善です。ここに取り組んでいる農場と、そうでない農場の差が、今後ますます広がっていくのではないでしょうか。農場なかにはただの技術だけでなく、凄まじいレベルの受精卵移植戦略をもっている農場があります。恐ろしいほどの差があります。

今回の内容からも分かるように、全国データが整備されてきたことで、「感覚」ではなく「構造」として繁殖を捉えることが可能になってきました。この流れは非常に大きく、そして確実に現場のレベルを引き上げていきます。今後さらにデータが蓄積され、生卵・凍結卵の区別や季節、産次といった詳細な解析が進めば、受胎率改善の精度は一段と高まるでしょう。

次回は、この体内受精卵移植と体外受精卵移植の違い、そして現場でどのように使い分けるべきかについて、さらに踏み込んで解説していきたいと思います。受胎率は偶然ではなく、再現性のある「結果」です。その構造を一つ一つ解き明かしながら、現場の繁殖レベルを次の段階へ引き上げていきましょう。

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