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蓮沼浩のコラム
第865話:夏季ET奨励金と係数1と10の意味

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2026年2月24日

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夏季の乳牛への受精卵移植に対する奨励金制度が示されました。令和8年の6月1日から9月30日までの期間に実施したETが対象となり、1頭あたり2回まで。対象受精卵はホルスタイン種、あるいはホルスタインと和牛の交雑種です。

ここでまず目に飛び込んでくるのが、「和牛は除く」の5文字。
和牛を直接増やすための制度ではない、というメッセージが明確に示されています。

なるほど。暑熱期の受胎率低下対策として乳牛へのETを推進する。その一方で、和牛受精卵移植は対象外となる。この取り組みは、間違いなく今年6月から9月までの和牛受精卵移植頭数にマイナスの影響を及ぼすと小生は考えています。前回のコラムでも触れた通りです。今後さらに和牛頭数の減少に拍車がかかるのではないでしょうか。

この事業にはすでにかなりの応募が集まっており、「受精卵が足りない」との話も一部で耳にします。対象はホルスタインと交雑種。つまり、いわゆる“国産牛”の割合が今後さらに高まっていく可能性が高いということになります。
 
今回の制度で私がさらに注目したのは、地域ごとの交雑種受精卵移植回数の上限です。意外にも、しっかりとした縛りが設けられていました。

交雑種ETの上限は・・・
「ホルスタインET回数 × ブロック係数」で決まります。

つまり、ホルスタインETを実施した回数に応じて、交雑種の移植回数の上限が決まるという設計です。この制限がなければ、極端な話、交雑種ばかりが移植されてしまい、乳牛頭数が減少してしまう危険性があります。そのリスクを抑えるためのブレーキとして、この数式が存在しています。そして、ここで登場するのが「ブロック係数」です。地域ごとに設定されています。

北海道は係数1。
九州・沖縄は係数10。

この数字の意味は決して小さくありません。
九州では、ホルETを1回実施すれば、交雑種ETは最大10回まで可能。北海道では同条件で1回まで。実に10倍の差があります。この違いは単なる数字の差ではなく、日本の酪農構造そのものを反映しています。
 
北海道は日本最大の乳牛供給基地です。大規模経営が多く、自家育成が基本。更新牛の安定確保が経営の生命線です。もしホルスタイン比率が崩れれば、全国の乳牛供給に影響が及びます。だから係数は1。乳用基盤を守る設計です。
一方、九州。とくに南九州は暑熱ストレスが強く、受胎率の低下は深刻です。経営規模も中小主体で、更新牛を外部導入に頼る酪農家さんも少なくありません。その実情を踏まえれば、係数10という設定は「地域事情に配慮した柔軟な制度」とも言えます。しかし、ここに長期的な問いが残ります。九州でF1偏重が進めば、乳牛頭数はどうなるのか。すでに出生乳牛頭数は減少傾向にあります。自家更新がさらに減れば、乳牛価格は上昇し、北海道依存は強まり、地域乳用基盤は徐々に縮小均衡へ向かう可能性も否定できません。
経営規模、土地条件、育成コスト、乳牛市場の役割、そして国全体の牛群構造。そのすべてが、「係数1」と「係数10」という数字に凝縮されているように思います。
 
制度は枠組みを与えます。しかし、その枠の中でどの品種を、どの割合で、どの未来を見据えて使うのか。そこにこそ、現場の知恵が問われています。夏は暑いですが、経営判断もまた、なかなか熱い季節であります。

ちなみに、あくまでも小生の独断と偏見と超無責任な考えと断ったうえでの話なので話半分で聞いていただきたいのですが・・・

何であれ「国」が方向性を決めた時はニコニコしながら「そうですね~~わかりました~~~」といいながらや・ら・な・い。

「和牛を除く」とわざわざ「国」が言ってくれているので、ここは当然「和牛を移植する」がベスト・アンサーのように勝手に思っています。

さてさて、酪農家さんはどうするのかな~~~
 
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