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第853話:防疫の正念場 |
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2025年11月25日
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先日、小生の所属する獣医師会の臨時総会で特別講演が行われました。
北薩家畜保健衛生所・防疫課長による「鳥インフルエンザ及び豚熱の現状」。まさに、今われわれが直面している情勢そのものを切り取った講演でした。
鹿児島県は言わずと知れた日本屈指の養豚県です。その鹿児島でついに11月18日、霧島市の野生イノシシから豚熱(CSF)ウイルスが検出されました。
令和7年10月22日時点で、野生イノシシの豚熱陽性は41都府県・8988頭。もはや「いつ出ても不思議ではない」段階でありました。指定区域内では経口ワクチンの散布が急ピッチで進められています。ただ、講演で示された「豚熱正常化のロードマップ(目標:2050年)」には、さすがに息を呑みました。
正常化にあと25年──。
気の遠くなるような年月です。それだけ根の深い問題なのだと痛感しました。
そして、もう1つの脅威がアフリカ豚熱(ASF)。
こちらも先月10月21日、ついに台湾での発生が報告されました。海を越え、島国にまで上陸したことになります。今後の動向から目が離せません。世界地図を眺めると、イスラム圏を除き、ユーラシア大陸はほぼ陽性国で真っ赤。その中で、アジアでは日本だけがぽつんと白抜き。これを見ると、背中に冷たいものが走ります。豚熱でさえあれほど広がった現状を思うと、ワクチンも治療法も存在しないASFの脅威は、正直「桁違い」です。養豚の世界が激変することになるでしょう。
とはいえ、暗い話ばかりではありません。
小生が “希望” を感じた明るい話題もありました。それが鳥インフルエンザ。
小生の地元には大規模養鶏の企業があり、そこの獣医さんとはお会いした時に時々お話しするのですが、ここ数年の事例分析や検証の積み上げにより、空気感染防除の技術が飛躍的に向上しているという朗報を伺いました。
発生時の感染拡大を抑えるための新しい手法も確立されつつあり、現場での泥臭い努力が、しっかり成果として形になり始めていることを実感しました。
以前の感染爆発では、この企業では100万羽以上が犠牲となり、「会社が潰れるかもしれない」と本気で思ったほどの究極の状況だったそうです。そこから踏みとどまり、原因を一つずつ検証し、改善し、積み上げてきた。その姿勢に、小生は胸を打たれました。今シーズン、この新しい防疫体制が必ずや効果を発揮する。未来はわかりませんが、小生は強い直感としてそう感じています。
畜産の現場には大きなリスクの波が絶えず押し寄せます。しかし、その最前線で、昼夜を問わず粘り強く立ち向かっている方々がいます。今回の講演を通して、小生は改めて思いました。今こそ、“防疫の正念場”。この踏ん張りが日本の畜産を未来へつなぐ。今回は養豚と養鶏の内容でしたが、牛さんの世界も大いに参考になるお話でした。
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今週の動画
妊娠牛の打撲傷【Contusion in cow】
今回の動画は妊娠牛の打撲傷(挫傷)への対応についてです。
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