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松本大策のコラム
「ミコチルを必殺技にしない」

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2009年3月16日

 このところ肺炎が流行って困っている農場も多いようです。肺炎のお話は以前(一昨年の1月13日から10週連続)にお話ししていますが、今回はミコチルという変わった抗生物質のお話です。
 肺炎対策としてミコチル(ゼノアック)もかなり使われ始めているようですが、最近何件か巡回したところで、「ミコチルはいろんな抗生物質が効かなかったときに必殺技に使っています」というお話を耳にしました。
 じつは、ミコチルの開発目的は「ウェルカムショット」や「カウンターショット」という予防対策用なのです。ウェルカムショットというのは歓迎注射という意味で、牧場への新規導入時などに打ってあげるもの、カウンターショットというのは、周辺農場で肺炎が流行しているときなどに牛房で1頭肺炎が出たら、同居牛に一斉に予防的に注射するものです。
 肺炎はこじらせたら治るものではありません。そのような重症の肺炎にミコチルを使うと、かえって耐性菌などを作る危険性もありますし、何より効果がありません。
 ミコチルの特徴は(1):効果のある細菌が多い、(2):ばい菌が感染したときに牛さんが自分で作り出す「肺炎増悪因子(LTB4)」を抑制し肺炎が悪化するのを防ぐ、(3):感染細胞のアポトーシスを促す、という3つがあります。
 (3)番目の特徴について補足すると、ばい菌が感染した細胞は最後は爆発し、ばい菌や周囲の細胞を溶かす酵素をまき散らして死んでしまいます。この爆発によって肺の炎症はどんどんひどくなります。ミコチルはこれを押さえ込み、感染した細胞を小さく萎縮させ、最後は白血球に食べて除去させるという、アポトーシスという細胞の死に方を促しますから、周囲の細胞にダメージを与えません。これらの働きを生かすには、肺の炎症が進む前に投与する方がベストなのです。しかもミコチルは標的細胞である肺や、肺胞の白血球などに取り込まれて集中するため数日から1週間にわたって効果を期待できます。
 もちろんこの投与の仕方は共済保険は適用されません。でも聡明な経営者の方なら1回肺炎にかかるといくら治療費がかかるか、経済価値の低下がどれだけあるか、ご存じですよね。自腹できちんと予防する、これが健全経営のコツです。
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