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松本大策のコラム
質問箱から(その9)~生理的貧血予防に対する鉄剤投与について~

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2017年12月25日

◎ご質問・ご相談コーナーへご投稿をいただいた質問と回答の内容をご紹介いたします。

ご相談内容

 獣医師をしております。農家さんからの問い合わせがありメールさせていただきました。

 「生理的貧血を予防するために鉄剤を注射するが、3日目じゃなきゃいけないのか?」というものです。私自身は、実際に分娩直後に注射していましたが、問題もなく、鉄剤は即効性ではないので別に3日以内に投与すればよいのではないか、との旨を申し上げましたが、「松本(ごめんなさい)の本に生後3日目と書いてある。松本(ごめんなさい)が理由もなしに生後3日目と書くはずがない。きっとバックデータがあるはずだ。」と言われるものですから、直接お伺いします。

 生理的貧血予防のための鉄剤の注射は3日目でなければならないのでしょうか、もしそうであるならば、何かバックデータがあるのでしょうか?

回答

 この農家さんは僕の先輩ですから呼び捨てでいいんです(笑)

 生後3日の鉄剤ですが、これは大きな衛生対策の流れの中で、出生時はいろいろと手をかける、生後1週間~2週間は駆虫などで手をかける、ということで、生後3日目に鉄剤のイベントを入れると、また一つ子牛に手をかける、 つまり観察の機会が増える、という意味合いが強いです。もう少しいうと、臍帯炎の予防などで出生時にOTCを使う方もいるので、これとは日程をずらしたかったこと、駆虫剤とも日程をずらしたかったこと、なども理由です。

 しかし、子牛の鉄代謝酵素が動き出すのは生後5日~1週間程度ですし、生理的貧血が現れるのも生後1~3週間ですので、鉄剤の投与はそれ以前であれば問題はありません。

 「だったら作業効率から言っても、生まれた同じ日にやった方がよい」という考え方も あるのですが、僕は仕事では「生産効率」を負うべきで、作業効率を優先させて、生産性が落ちるようであれば、それは逆効果だと思っているのです。3日目にもう一度、子牛の状態をしっかり確認しながら鉄剤を接種すると、意外な異常に気づくことも多いので、僕はこのやり方をお勧めしています。

 ただ、母牛のビタミン不足のある農場では、鉄剤とビタミンA、Eを分けて(混ぜないで)打ってあげた方が、血中ビタミンAの上昇は早いです。もしかしたら鉄剤がアジュバンド(ワクチンが長く効くように徐々に吸収させる薬)の様な働きをしているのかも知れません。

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