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松本大策のコラム
クロストリジウムというばい菌

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2017年6月19日

 みなさん、すでに梅雨に入った地域も多いと思いますが、牛さんたちはお変わりありませんか?この時期はカビや細菌性の下痢にご注意ください。

 今回は、「クロストリジウム」というばい菌についてのお話です。クロストリジウムという細菌は、そこいらにいる割には検出が難しいばい菌とされています。それというのも、この細菌は「嫌気性菌」といって、空気のあるところでは死んでしまう家系(菌株といいます)も多いのです。

 クロストリジウムの仲間には、法定伝染病の原因となる「クロストリジウム・ノヴィ」や悪性水腫の原因となる「クロストリジウム・セプティカム」、食中毒の原因や牛さんが起立不能になって死んでしまうこともある病気で有名な「クロストリジウム・ボツリナム(ボツリヌス菌と聞くとご存じの方が多いでしょう。人の食中毒と牛の起立不能の原因となるボツリヌス菌はタイプがちがいます。)」などが有名ですが、僕たちが最もポピュラーにお目にかかるのは、下痢とか血便の原因となる「クロストリジウム・パーフリンゲンス」という種類です。血便というと「コクシジウムだ!」という方が多いのですが、これは少し違います。コクシジウムというのは寄生虫(原虫)の仲間ですが、細菌に比べると格段に大きいので、糞便検査(顕微鏡による寄生虫検査)ですぐに見つけることができます。それに比べて、クロストリジウム菌はいかにバイ菌の中では大型とはいえ、顕微鏡で見つけるにはギムザ染色という染色をして、油浸強拡大(1,000倍)で見なければ見つかりません。

 それから、クロストリジウム菌は「偏性嫌気性菌」といって、酸素があると死滅するタイプなので、普通に糞便を持って帰っても細菌培養で引っかからないことも多いのです(ですから嫌気ポーターという特殊な保存容器で糞便を輸送し、「嫌気培養」というやり方をしないと(最近ではPCR法とかクロストストリップで調べることもできるようになりましたが)、確実とはいえないのです。

 さてここからが本題!血便の時に「あ、コクシ見っけ!」とばかりにコクシの特効薬の「サルファ剤」を使うと、クロストリジウム・パーフリンゲンスの中にはβ毒素をドッと出して牛を殺してしまうことがあるのです。
 さあ本題!! 血便の際は、必ずクロストリジウムの特効薬であるアンピシリンも併用しましょう。というか、うちではサルファ剤はあまり使いません。
 「血便や下痢の原因がクロストだったら、すぐに死んでしまうから違う」という先生がいますが、すぐに死ぬのはクロストリジウム属でもセプティカムとかノヴィという種類のものです。パーフリンゲンスはなかなかそのままでは死なないのです。

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