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松本大策のコラム
ヘモフィルス症って最近あまり見ないから...

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2017年6月23日

 みなさん、ヘモフィルス症ってご存じですか?もっとも今は「ヒストフィルス・ソムニ症」と名前が変わっていますが(僕が共済組合の獣医師だったころは、ヘモフィルス・ソムナスと呼ばれていたバイ菌なのです。年取ったなぁ(T_T)。)、正式名称は「伝染性化膿性血栓塞栓性髄膜脳脊髄炎」といいます。あ、早口言葉が好きな人以外は覚える必要がありませんよ(笑)。

 20年ほど前にワクチンが開発されるまで、僕たち現場の大動物獣医師にとっては、とてもなじみ深く、またイヤな病気でした。共済組合の死亡廃用事故のトップが常にヘモか尿石症でしたし、脳炎症状で起立不能になって、治癒率も50%くらいでしたし、なによりも発症時間を選んでくれない!寝たと思ったらこの病気が出たと起こされるし、ま、どんな病気も時間は選んじゃくれませんけど、この病気だけは急患注の急患でしたから、夜中でも早朝でもとにかく診療に飛んでいかなくてはならなかったのです。

 今はほとんど出なくなったのに、なぜ今頃この病気のことを引っ張り出してきたの?と思う方も多いでしょう。今頃お話しするのは、最近とても発生が少なく、またワクチンの普及のおかげで『典型的な症状』がでないことや、うちのスタッフでも実際にこの病気を診たことがない、という獣医師も増えてきたためです。典型的な症状とは、起立不能やケイレン、とくに頭を横に曲げて後方へ何度もバタンバタンと打ち付ける、などです。最近はこのような典型的な症状は少なくなりましたが、眼を注意してみると『眼球振盪』といって、目玉がキュンキュンと動く状態が見られることは多いようです。

 この病気には、以前はとにかく血管確保を早くおこなって、アンピシリンとデキサを一気に打った後で重曹注やリンゲル、ビタミンB1、B6、B12、ヘパリンという血液凝固を防ぐお薬や、場合によっては血栓溶解剤などを使用して、体位を変えながら褥瘡を防ぎ、毎日治療する、という方法をとっていました。牛さんをつり上げて40日ぶりに起立したという症例(肥育で出荷したら120万円くらいで売れてくれました)もいました。でもそれだけ手もかかっていたのです。リハビリとしてお口の中に乾草を入れてあげて食べる感覚を取り戻すというのも有効でした。この病気にしても、リステリア症(牛が旋回する症状を見せます。サイレージから感染します。OTCが特効薬でした。)など、最近ではあまり見ないけど、たまに相談が来るのでこうして書いた次第です。最後にビデオを乗せておきますね。

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