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蓮沼浩のコラム
第863話:と畜頭数雑感 その2

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2026年2月10日

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前回のコラムでは、日本全体のと畜頭数の推移について紹介いたしました。今回はその続きとして、と畜頭数の内訳、つまりどんな牛が、どれくらい屠畜されているのかを少し覗いてみようと思います。こうした数字の話は正直なところ、あまり多くの人が関心を持つテーマではないかもしれません。ただ、小生はこういうデータを眺めていると、その裏側にある国家の政策や、農場の経営判断、流通の思惑などがぼんやりと浮かび上がってくる感じがして、なかなか楽しいのです。そこでひとつの参考例として、令和6年度のと畜頭数の内訳を見てみました。こんか感じになります。

分類上は12種類に分けられるのですが、実質的には、ホルスタイン種、交雑種、黒毛和種の3種でほぼすべてが説明できてしまいます。ジャージー種や褐毛和種などをはじめ、他のものは、グラフ上ではほとんど確認できないレベルです。
令和6年度のデータでは、ホルスタイン種が305,873頭、交雑種が257,752頭、黒毛和種が542,983頭。構成比で見ると、ホルスタイン種が27.2%、交雑種が23.0%、黒毛和種が48.4%となり、この3種で全体の98.5%を占めています。日本の牛肉生産は、多様に見えて、統計に落とすと実にシンプルな構造をしていることがよくわかります。

では、先ほどあげた3種のと畜頭数の動きをみてみましょう。


ホルスタイン種のと畜頭数の動きは、非常にわかりやすいです。平成17年度の493,934頭をピークに、その後は減少し、令和6年度には305,873頭まで落ち込んでいます。およそ4割減です。この減少は、ホルスタインという牛そのものの問題というよりも、酪農全体の構造変化がそのまま反映されていると考えられそうです。

一方、黒毛和種はまったく違った表情を見せます。

平成18年度ごろから頭数が増え始め、平成24年度でいったん天井を打ち、そこから減少に転じます。その後、平成28年度に再び底を打ち、令和6年度に向けて再上昇しています。非常にきれいな波の形を描いています。この波は、黒毛和種という牛の性質そのものをよく表しているように思います。繁殖を増やすと決めてから、子牛が生まれ、肥育され、枝肉として市場に出るまでにはどうしても時間がかかります。その間に子牛価格や枝肉相場、飼料価格などが何度も変動します。結果として、数年後に供給が増えて相場が下がり、また控える、という循環が起こりやすい。黒毛和種のと畜頭数の波形を見ていると、日本の肉用牛生産がいかに「時間差のある産業」であるかを改めて実感させられます。


交雑種は、さらに少し複雑です。平成21年度から平成23年度にかけて大きく頭数を落とし、その後はおおよそ5年周期くらいで小さな増減を繰り返しているようにも見えます。交雑種が読み取りにくいのは、その立ち位置が常に中間にあるからだと思います。乳用後継を確保したい酪農側の事情と、肉としての採算を重視する肥育側の事情、和牛受精卵の動き。さまざまな要因に引っ張られます。相場が良ければ増えやすく、少しでも状況が悪くなると真っ先に調整されやすい。交雑種は、ある意味で日本の牛肉生産における「調整弁」のような存在で、その役割がそのまま数字に表れているようにも感じます。

こうして見てみると、令和6年度のと畜頭数の98.5%を占めるこの3種(黒毛和種、ホルスタイン種、交雑種)は、それぞれがまったく異なる論理で動いているように思います。ただの数字の羅列に見えると畜頭数の内訳ですが、じっくり眺めていると、日本の畜産がどんなバランスの上に成り立っているのかが、少しずつ見えてくる気がします。見当違いな想像であることも多いですが、このようなグラフやデータを見ながら思いをはせる時間が小生意外と好きですね~~~。さてさて、今後はどうなっていくのでしょう?
 
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その舌遊び、牛さんからのSOSです。

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