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笹崎直哉のコラム
膿瘍について考える その4

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2019年1月22日

 では、実際に症例を紹介しながら考えていきます。「肥育牛の左後ろ足が腫れている」との連絡にて伺い、その牛さんは食欲は無く、熱発しており全身症状が出ていました。問題の左足は腿の部分が大きく腫れあがり、触ってみると化膿症でよくある波動感がありました。

 この時点で化膿症と推測し、内容液を確認しようと患部を刺してみました。すると黄白色の膿汁がにじみ出てきたので、この時点で確信にいたりました。全身症状が出ていたのと、化膿巣が皮膚近くまで進出していたことから、投薬で様子見という選択肢は捨て、切開洗浄を選びました。パンパンになった右足の緊張を切開によって取り除いてあげるだけでも痛みは和らぎます。ではどこを切開しましょうか?理想は体の下位でしたよね。おまけに必要以上の切開は避けましょう。膿瘍の周囲組織は炎症で血管が拡張しています。

 実際に少し切開しただけでドンドン排膿していき、みるみる足もスマートになってきました。慎重な切開を行ったので出血も多少はあったものの、やがて止まりました。その後は大量の水道水を入れたプレッシャースプレーを用いて化膿巣をゴシゴシ洗っていきます。洗っている最中は膿壁と思われる固いシコリのような膿瘍が多数出てきました。これを出来るだけ残さないのがポイントです。なお洗浄時の出血に関しても多少はありますので気にしなくて大丈夫です。最後に仕上げの抗生物質(ペニシリン)を皮下注射して終了です。抗生物資の投与は3~7日ほど状態をみながら続けていきましょう。

 今回のように患部が大きい場合は困難ですが、膿壁が残ってしまい再発しそうな場合、洗浄後にヨードチンキで満たしたガーゼを切開口から詰めてあげると良いです。詰め終わったら24~48時間後にカーゼを抜いてあげるだけで構いません。参考にしてみてください。

 今回の症例は2~3週間後に完治しました。牛さんの体の強さには日々驚かされてばかりですが、一方で感謝の気持ちで一杯です。

おしまい

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