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笹崎直哉のコラム
膿瘍について考える その2

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2019年1月8日

 では患部が化膿している場合、切開し排膿させる必要が本当にあるのでしょうか。ここで切開を加える理由について考えていきましょう・・・

 ①患部が膿瘍で満たされることで発生する緊張を減らし、痛みが和らげるため
 ②炎症滲出物、細菌、毒素を出すことで、患部組織の衝撃を少なくさせるから
 ③排膿を行うことで、組織の再生を促すため

 この効果を考えると、現場では「よし切っていきましょう!!」といった考えが先行しがちですよね。でも切開の時期(タイミング)、切開部位、切開の進め方の3つのポイントをつかんでいないと「これなら切開しないほうがマシだったかも」という結果になってしまうこともあります。意外にも慎重さが求められてくる問題ですね。

 では切開の時期についてです。これは牛さんの感染の状態からみていきましょう。つまり熱が出て、頭が痛くて食欲がない、といった全身症状を認める場合はなるべく早期に切開することをお勧めします。しかし特にそれもなく、炎症が局所であれば抗生剤(ペニシリンなど)と消炎剤(水性デキサメサゾンなど)の投与を何日か続けた後、切開するのも有効です。これは患部がさらに小さくなり限局してくれることを期待してのことです。あるいは化膿部分が皮膚表面に近づくまで待ってから切開するのも有効です。

 次に切開の部位、進め方です。切開にあたっては、炎症により波動感(その名の如く、波が動いているような感覚です)のある部位に切開を加えます。このときは血管や神経の走行に注意しなければなりません。また一般に膿瘍を切開する場合は、その切開口が体の下位になるようにし、膿が溜まるのを防ぎ、排出がスムーズに行えるようにします。切開の大きさも注意しましょう。必要以上に大きな切開は避けましょう。これも重要なテクニックです。実際私はメスはあまり何度も使用しないようにしています。典型的に鋭利で歯切れが良いツールだからです。一度メスで小さく切開した後はピンセットやメスの柄を用いて剥離していくようなアプローチ方法を選択しています。これは先ほども挙げましたが、血管、神経、周囲の筋組織、それからその他臓器を傷つけないことにも繋がってきます。それから膿瘍の位置が分からない場合や深部に位置する場合は、あらかじめ針で穿刺しながら特定し進めるのが良いと思われます。

つづく

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