(有)シェパード[中央家畜診療所]がおくる松本大策のサイト
戸田克樹のコラム
第178話「こりゃすごいBL」

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2018年3月28日

「肩がはれている牛がいる」
との電話を受けて診療に向かったときのことでした。
風を受けた桜のはなびらが舞い散り、それはそれは穏やかな診療日でした。

到着して牛を見てみると…

なんだこれ。
右の肩だけが異様に腫れているぞ…。

化膿症の場合はもう少し背側が腫れるはず。
穿刺してみましたが、黄色っぽい液体がほんの僅かに帰ってくるだけ。
触診しても波動感はなく、組織が腫れている感じです。

エサはまったく食べないし、顔つきも悪い。重症そう。
少し位置が違う気がするけれど、まさか…
と思いながら体表を触診していくと、両方の腸骨下リンパ節、左の浅頸リンパ節も軽く触っただけでわかるくらい大きくなっていました。

まさか…。

不安を払拭しようと血液検査を実施。

WBC 45,000/μl

えっ…。

血液塗沫はどうだろう。

顕微鏡をのぞいて絶句。
見えるのはほとんどすべてがリンパ球でした。

普通は好中球がもっと見えていいんです。単球や好酸球だって見えてもいいんです。
でも視野にうつるのはほとんどリンパ球。しかも核に切れ込みがあったり(分裂しようとしている状態)、核のクロマチン凝集(分裂前に染色体がコンパクトな構造に変化した状態)もみられ、明らかに正常ではない像が確認されました。

牛白血病の発症です。

牛飼いさんたちが耳にしたくない病気の中のひとつですよね。
私たち自身もできれば遭遇したくない病気です。治療法はありません。屠畜場に連れていけたとしても牛白血病の肉は市場に出すことはできません。

予防するしかない病気、発症させたらいけない病気、それが牛白血病です。
清浄化を目指し、各地域が独自の取り組みを行っていますが、まだまだ日本国での完全清浄化は道のりが遠そうです。

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