(有)シェパード[中央家畜診療所]がおくる松本大策のサイト
蓮沼浩のコラム
第892話:もしかしたら牛肉不足の入口に立っているのかもしれない?(最終話)

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2026年10月13日

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これまで4回にわたり、日本の牛肉を取り巻く状況について、国内の頭数、海外の牛肉事情、輸入量、在庫、そしてスーパーの牛肉売り場の変化など、さまざまな角度から小生の独断と偏見を交えて考えてきました。今回はいよいよ最終話になります。

実は最近、診療先の農場で小生の耳に少し気になる話が入ってきました。それは、と畜場の方から農家さんの方に「牛が少ないので、何とか出荷してもらえませんか」とお願いされることが結構あるという話です。いやいや・・・これまで牛さんを出荷する側からすれば、時々出荷制限がかかり、と畜場の受け入れ状況を確認しながら出荷頭数や日程を調整することが珍しくありませんでした。ところが今度はと畜場の方が牛を求めているというのです。もちろん、すべてのと畜場でこのような状況が起きているわけではありません。地域や時期によって事情も異なるでしょう。

しかし、小生はこの話を聞いて、牛肉不足という問題には、これまで考えていた以上に大きな問題があるのではないかと感じました。それは、牛さんが減ることで、牛さんから牛肉を生産するための社会的な仕組みそのもの全体を維持していくことが徐々に困難になる可能性があるということです。例えばと畜場という施設は、牛さんが1頭しか来なくても、100頭来ても、一定の設備や人員を維持しなければなりません。衛生管理、検査体制、冷蔵設備、排水処理、施設の維持管理など、さまざまな経費が必要になります。仮に、1日に平均50頭処理していた施設が平均40頭しか処理できなくなったらどうなるでしょうか。牛1頭当たりの処理収入が同じであれば、収入は20%減少します。しかし、施設の維持費や人件費が同じように20%減るわけではありません。つまり、牛さんが減れば減るほど、1頭当たりにかかる固定費の負担が大きくなるわけです。これは経営的にかなり厳しい問題です。

さらに小生が最も心配していることがあります。それは、日本の畜産業が持っている「牛を増やす力」そのものが弱くなってしまうことです。牛肉の供給が不足したとしても、工業製品のように生産ラインを増設すれば翌月から増産できるわけではありません。繁殖雌牛を確保し、受胎させ、子牛を産ませ、育成し、肥育する。これには長い年月が必要です。しかも、その間に農家さんが廃業し、技術者がいなくなり、と畜場や流通の仕組みまで失われてしまったらどうなるでしょう。牛さんを増やそうと思っても、簡単には増やせなくなってしまいます。農林水産省によると、2025年の繁殖雌牛は61万1,000頭で、前年より4.5%減少しています。この数字を見ても、日本の牛肉生産の土台が少しずつ小さくなっていることがわかります。ただし、現在の日本で牛肉が全面的に不足していると断定できるわけではありません。輸入牛肉も流通していますし、消費量そのものも変化しています。と畜場から牛の出荷をお願いされるという話についても、全国的な現象なのか、地域的な問題なのか、今後さらに確認する必要があります。それでも、小生は今回の連載を通して、一つのことを強く感じました。牛肉不足の本当の怖さは、牛肉が一時的に足りなくなることではなく、足りなくなった牛肉を再び増やすことが難しくなることなのではないでしょうか。牛さんを育てる農家さんがいて、牛さんを診療する獣医さんがいて、飼料を運ぶ人がいて、牛さんを運搬する人がいて、牛さんのお薬をつくる人がいて、と畜場があり、食肉を加工して販売する人達がいる。そのすべてがつながって、初めて小生たちは牛肉を食べることができるのです。この仕組みのどこか一つが失われても、牛肉は消費者の食卓まで届きません。

小生は日々、全国のさまざまな農場を巡回し、多くの生産者の皆さんとお話をしています。その中で感じるのは、牛さんを飼うという仕事が、以前にも増して難しくなっているということです。飼料価格、人件費、資材価格、後継者問題、そして疾病対策。課題は山積みです。しかし、そのような状況だからこそ、今いる牛さんを大切に育て、事故を減らし、繁殖成績を改善し、少しでも効率よく生産できる体制を構築することが重要になると考えています。小生もひとりの獣医師として、目の前の牛さんを1頭でも多く健康に育て、農家さんが少しでも明るく楽しく経営を続けられるようにお手伝いしていきたいと常々思っています。今回の連載の題名は、「もしかしたら牛肉不足の入り口に立っているのかもしれない?」としました。最初は少し大げさな題名かなとも思いました。しかし、いろいろな数字を調べ、現場の話を聞くにつれて、単なる牛肉の価格や数量の問題ではないことが見えてきました。小生たちは今、牛肉が足りなくなる入り口に立っているのではなく、牛肉を安定して生産できる社会を維持できるかどうか、その分岐点に立っているのかもしれませんね。

それにしても、中東情勢のさらなる混乱が非常に気になります。なんか・・・牛肉がどうのこうの言っている場合ではないような様相を呈しているような気が・・・。

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骨折その2

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