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松本大策のコラム
ビタミンAと亜鉛(ビタミンコントロールは必要か?) その1

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2018年8月20日

 はい、刺激的な題で注意を引きつけてみました(笑) ここのところ、牛さんの話題を書いていませんでしたからね。
 でも、僕は本当に、ビタミンコントロール飼育については否定派です。この件に関しては、今回のシリーズの中で大規模試験をやった結果などを報告していきますが、まずはビタミンAとはどういう働きを持つのか?というお話しからいきましょう。

 ビタミンAは別名レチノールという物質で、人参や青草の黄色い色素(βカロテン)から腸管や肝臓・腎臓などで合成されます(以前は牛さんでは、肝臓と腎臓での合成は否定されていました)。働きはいくつもあるのですが、まず1つ目はものを見るときの「眼」が光を感じる「網膜(写真でいるとフィルムに当たります)」にある光を感じる物質「ロドプシン(フィルムの感光剤にあたります)」の材料となります。ですからビタミンAが不足すると、夜盲症(暗いところで眼が見えない病気)になったり、失明したりします。

 それから、ビタミンAは「亜鉛」と強調して、皮膚などの「表面の細胞(上皮細胞といいます)」の機能を維持したり保護したりするのです。このあたりは「動物はちくわなのだ!」シリーズ(2017年6月30日以降のコラム)に詳しく書いてあるのですが、僕たちほ乳類は、ちくわのように管構造になっていて、管の中身が一部膨れて胃袋になり、グネグネと曲がって小腸になり、ぐるっと回って大腸になり、肛門へと開口しているのです。つまりは、消化管の表面も皮膚と同じ「外界に面している表面」なわけです。この表面の上皮細胞を護っているのがビタミンAと亜鉛なのです。皮膚は皮膚上皮細胞、胃袋や腸は粘膜上皮細胞といいますが、すべて表面の細胞です。

 この他にも、酸素を効率的に吸収するために、空気を体内に取り込むべく外の世界を体内に取り込んだのが「肺」でここの表面は、気管支粘膜上皮や肺胞粘膜上皮と呼ばれます。さらに、そこいらに卵を産むと、鳥や魚などに食べられてしまうので、産卵場所を体内に取り込んだのが子宮で、その表面が子宮粘膜上皮です。これらの上皮細胞は少し深いところで作られ、次第に薄く、そして核がなくなって表皮になるのですが、ビタミンAと亜鉛が不足すると、表皮をつくる働きがうまくいかず、不全角化、簡単に言うとフケになってしまいます。フケというと頭皮を思い浮かべますが、あれは髪の毛があるので剥がれたフケ(不全角化細胞)が引っかかって目立つだけで、実はどの「上皮細胞」でもフケは起こります。

 もしもフケが肺胞上皮に起こると、表面が荒れているので、バイ菌がとりつきやすくなり肺炎を起こしやすくなりますし腸の表面にフケができると腸炎を起こしやすくなります。第一胃の表面にフケができた状態を、獣医学用語でルーメンパラケラトーシスと呼ぶのですが、これって格好つけて英語で言い換えただけで「第一胃の粘膜にフケが出たよ」という意味です。でも、この状態になると、牛さんの特徴である「第一胃粘膜からのエネルギー源(VFA)吸収」がうまくいかなくなり、ルーメンアシドーシスになったり、粘膜表面の荒れたところからバイ菌(フソバクテリウム・ネクロフォーラムという菌)が侵入して、門脈という血管を通って肝臓に流れ着き、そこで化膿して「肝膿瘍」を作ります。

 さらに、子宮の表面にフケができると、せっかく授精した受精卵が「着床」しようとしても、くっついた子宮の粘膜がボロッと剥がれて受胎出来なくなるのです。

つづく

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