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蓮沼浩のコラム
第498話:初乳

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2017年12月7日

 往診を回っていると、ある農場で農家さんが産まれてきた子牛の横で母牛の乳を搾っています。そして「う~~~ん」と唸っています。何だろうと思って聞いてみると、どうも母牛の初乳の量が少ないかもしれないと悩んでいました。乳房もあまり張らず、絞っても出てくる量が少ないと感じているようです。初産牛の50%の初乳産乳量は4L以下、30~50%の初乳はIgG濃度が50g/L以下という報告もあります。また、初乳によるIgGの受動輸送失敗の頻度が19.2%あったという報告もあります。私たちが思っている以上に、実はうまく初乳免疫を獲得できていない子牛がいるかもしれません。

 ここの牧場の母牛頭数は結構いる(約100頭)のですが、人工哺育は行わず、すべて親付で子牛を管理しています。そして、分娩前の管理方法など改善してきたことで、かなり子牛の生時体重が上がってきています。非常に状態はよくなってきているのです。しかし、初乳の品質に関しては調べられますが、さすがに初乳の量に関しては和牛の場合把握することが難しいです。

 これから鹿児島県は寒さが本格的に厳しくなってくる時期です。ロタウイルス、クリプトスポリジウムなどに感染すると重症化しやすくなる時期です。しっかりと初乳を飲ませて子牛の免疫力を上げておきたいですね。多くの牧場で色々なタイプの初乳製剤を使っているところがあると思います。小生は一番良いのは母牛の初乳と初乳製剤の組み合わせだと思います。もちろん、子牛の疾病の発生状況などさまざまな要因がからんでくるのですべてが良いというわけではありません。しかし、子牛の下痢で苦労している牧場であれば、飼養衛生管理の改善以外に一度初乳という視点からも対策を検討してみてもいいかもしれませんね。子牛の血清IgG濃度が10mg/mlより低い受動免疫伝達不全の場合、60日目の死亡損失が10mg/ml以上の2%から6%以上にあがると言われています。今まで何度も何度も先人たちが大事だという初乳に意識をもう一度もってみるといいかもしれませんね。

 さてこの農家さん、一応初乳製剤で免疫を強化した方がいいですよとお伝えしたのですが、やってくれるかな(笑)。

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