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松本大策のコラム
分娩前に胎盤がはがれてきた!・・・早期胎盤剥離のお話

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2017年9月11日

 みなさんは、分娩前もしくは分娩中に胎盤(なんかイチゴを潰したような、桑の実のような赤黒いものが帯膜にくっついてきた経験はありませんか?

 これは早期胎盤剥離といって、とても危険な状態です。なぜ危険かというと、おなかの中の赤ちゃんは、胎盤を通じてお母さんから生きるために必要不可欠な「酸素」や「水分」、そして「栄養分」を与えられているからです。とくに酸素にいたっては、子牛が生まれて呼吸するまでは、お母さんからの酸素供給がストップしてしまうといわゆる呼吸困難状態に陥って死んでしまいます。

 胎盤は、お母さん側の「子宮胎盤」と子牛側の「胎膜胎盤」が結合したものです。人間の胎盤は、盤状胎盤といって丸い1つの胎盤なのですが、牛さんは多胎盤といって直径7~10cmくらいの胎盤が70個くらい帯膜にくっついています。この胎盤からの血管がお母さんの肝臓を通して、栄養や酸素を子牛に与えてくれるのです。

 さて、そういうわけですから、胎盤は子牛が生まれてしっかり自分で呼吸できるようになるまでは(言い換えると、へその緒(臍)帯が切れるまでは)、しっかりお母さん側の「子宮胎盤」と子牛側の「胎膜胎盤」がくっついていてくれないと困るわけです。

 しかしながら、まれに分娩前、もしくは分娩の途中で胎盤同士が剥がれてくることがあります。牛さんでは多くの胎盤が存在しますから、ほとんどがはがれるまでは子牛はまだかろうじて酸素を与えられますが、この症状は見つけたときがすでに「急患」だと思ってください。とにかく、早めに子牛を娩出させてあげるしか、対応策はありません。帝王切開をしなければならない場合もあります。

 この「早期胎盤剥離」の原因は、人間の産婦人科領域でもまだ分かっていません。僕たちはとにかく、この状態に遭遇したら、急いで子牛を娩出して助けるしかないのです。

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