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お薬のお話し

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2016年5月23日

 畜産に関係のない人と話していると、よく「牛も病気するの?」とか「牛も治療するの?」とか聞かれます。牛のお医者さんとしては、やれやれまたか、と思うわけですが、みなさんは牛さんにも、病気によっては様々なお薬を使うことをご存じですよね。

 今回は、少しお薬のお話をしようと思います。もちろんみなさんは、獣医さんに治療依頼するか、管理獣医師の指示書によって治療なさっているので、別に知らなくてもいいことかも知れませんが、やはり知っておくと何かの際に役に立つと思うので、簡単に触れておきたいと思います。

 まず、風邪や下痢などの際に使う「抗生物質」ですが、これはバイ菌を殺す薬です。抗生物質ではウイルスを殺すことはできません。肺炎や下痢では、ウイルスが原因のことも多く、その場合牛さんの身体の免疫でやっつけてもらうために、免疫を上げる「ワクチン」を使う必要があります。そして、バイ菌にもいろんな種類があって、それぞれに効果のある抗生物質が異なります。それから抗生物質を使う場合は、きちんと使わなければ(つまり量をけちったり、途中で治療を止めたりすると)、いわゆる「耐性菌」という抗生物質の効かない菌を生み出してしまいます。

 それから、抗生物質には「時間依存性抗生物質」と「濃度依存性抗生物質」があります。時間依存性抗生物質は、一度に大量に打つよりも、一日に何回かに分けてこまめに打つ方が効果があります。
 時間依存性抗生物質は、いわゆるペニシリンの仲間(βラクタム系)であるアンピシリンやセフェム系の抗生物質です。
 濃度依存性抗生物質は、一回にドカ打ちした方が効果が高い抗生物質で、テトラサイクリン系(OTCなど)やニューキノロン系(バイトリルやマルボシルなど)、クロラムフェニコール系(フロロコールなど)、マクロライド系(ミコチルやタイロシンなど)があります。

 他の分類の仕方として、「殺菌性抗生物質」と「静菌性抗生物質」という分け方があります。静菌性抗生物質は、テトラサイクリン系とマクロライド系、クロラムフェニコール系のもので、タンパク質の合成をじゃましてバイ菌が増えるのを抑え、その間にバイ菌の寿命が尽きたり、免疫細胞がバイ菌をやっつけるという仕組みです。
 殺菌性抗生物質は、それ以外のβラクタム系やニューキノロン系、アミノグリコシド系などの抗生物質で、バイ菌が増える時を狙って殺菌してしまうものです。
 ですから一般的に静菌性抗生物質と殺菌性抗生物質は併用しません。バイ菌が増えるのを静菌性抗生物質がじゃますると、殺菌性抗生物質が働けませんからね。

 しかし、獣医さんはあえてこれらを併用することがあります。それは、片方の抗生物質が効果がない怖れがある場合です。その場合、たとえば静菌性抗生物質が効かないバイ菌では、増殖しますからその際に殺菌性抗生物質が効く、ということです。

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