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松本大策のコラム
下痢と制限哺乳のお話し

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2013年4月8日

 まだミルクを飲んでいる子牛が下痢をした場合、「断乳」といってミルク(や母乳)の給与を中止した方がいい、とか「断乳しない方が良い」とかの議論をよく耳にしますし、コンサル先やホームページの質問でも、同じような相談をお受けすることが多いです。

 実際、似たような症例はあっても「同じ症例」は二つとない、といいますから、一言で「こっちの方がいいよ」といいきることはできません。

 でも、なるべく失敗しないようなアドバイスはできると思っています。まず、「断乳」の利点と注意点ですが、断乳すると消化器を休ませることができますし、バイ菌の餌になるタンパク質や糖分を制限することで、下痢の治癒を促進しよう、というのが利点と言えます。
 注意点としては、ミルクを与えないことによって子牛が栄養不足に陥り、かえって免疫低下などを起こすために、病気の改善が遅れる、という点です。農場によっては断乳の間、電解質液なども与えないので、ミネラルバランス失調や脱水を起こす場合もあります。
 ですから、「断乳」を実施しなければならない場合は、電解質(経口補水塩)を与える、断乳は2日以内とする、ということを念頭に置いてもらいます。

 実際、僕自身は「断乳」よりも「制限哺乳」をお勧めすることが多いです。「制限哺乳」というのは、通常のミルク給与量の半分程度を回数を増やして給与する、というやり方です。

 話か少し変わりますが、消化器は口から腸に至るまでアルカリ性で働く酵素で消化するのに、なぜ真ん中の胃袋には強酸性の胃酸(塩酸)と酸性で働く酵素(ペプシン)があるのでしょう。
 じつは牛さんの第四胃(人間の胃袋と同じ)は、「消化器」ではなく、食べ物の「一時保管&殺菌器官」なのです。第四胃に食べ物や飲み物をためている間に、強烈な酸で消毒しつつペプシンでバイ菌を消化(殺菌)して、無菌状態の「安全になった食べ物」を下部の消化管に送って危険なく消化するのです。

 ですから、第四胃の殺菌能力を超えない量を給与することは、下痢の場合とても有効なのです。お母さん牛につけている子牛も、母子分離しておいて、1日6回ほどお母さんにつけて「一分間だけ」おっぱいを飲ませます。
 一分間で飲める量は通常第四胃の殺菌力を超えないからです。
 お母さんにつける前には、それぞれの乳首の中に溜まってる分のミルクは絞りきってあげてくださいね。溜まったまま傷んでいることがありますからね。

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