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池田哲平のコラム
牛の解剖37:唾液腺(2) ~ルーメンの健康材料~

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2010年4月16日

 ウシはルーメンという巨大な発酵タンクを持っており、その中で常に有機酸が発生しています。これらはウシのエネルギー源やサシの素になるものですが、あくまで“酸”なのです。吸収速度を上回って増えすぎればルーメンの中は酸性(pHが低い)状態となり、最悪の場合、ウシは死んでしまいます。このルーメンの酸性状態を抑えるのに最も大切な役割を果たしているのが唾液です。ウシの唾液は重炭酸ナトリウム(重曹)とリン酸塩が主成分で、pHが比較的高めになっています。このpHの高い唾液をウシが自分で飲み込むことによって、有機酸により酸性になりやすくなっているルーメン内を中和しているのです。これが唾液の“緩衝作用”です。
 ではどれくらいの量が一日に利用されているのでしょうか?10L?50L?いやいや、成牛ではゆうに100Lは唾液腺から分泌されており、そのうちの99%以上がウシ自身が飲み込むなどして再利用されています。つまり、ちょうど第一胃の容積(100~150L)と同じくらいの唾液が分泌・再吸収されているのです。もし何らかの原因で嚥下障害や分泌過剰になり唾液が有効に再利用されなくなると、ウシは脱水やアシドーシスとなり、生命の危険に陥る場合もあります。
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