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戸田克樹のコラム
第253話「炎症をどう扱おうか⑧」

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2019年9月25日

シェパードでは獣医師を募集しています
 シェパードでは、関東地区の獣医療が不足している地域を支援するため、栃木県那須塩原市に支所を設けることにいたしました。2020年の4月に開設する予定です。経験、未経験は問いません。シェパードで研修後、現地勤務となります。募集内容は こちら から。

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ステロイド剤も非ステロイド剤もそれぞれ特徴があり、良い点も悪い点もありました。
特にステロイド剤は合成ホルモン剤と記載されているように、長期投与や突然の投薬中止によって体のホルモンバランスに影響を与える可能性もあります。牛さんはそのあたりが割とタフなのですが、基本的には少しずつ薬剤を減らして投与をストップするのが理想的です。例えば最初に5ml投与すると5⇒4⇒3⇒2⇒1⇒0mlというような少しずつ減らしていって切るやり方ですね。

原因が叩ければ炎症は止まる
もっとも怖いのが、ステロイドだろうが非ステロイドだろうが、抗炎症剤を使用すると一旦は症状が大きく改善するところなのです。牛さんの状態はよくなるのですが、それにより治療者が安易に抗炎症剤を使用する癖がついてしまいます。炎症の原因がなくなれば、抗炎症剤は無くても問題はない、というのがポイントです。

例えば、「熱があったけどペニシリンとデキサを打ったらすぐ元気になった。なのに、ずっとそれを打っていたら数日後に死亡した」というケースがありました。解剖してみると肺がひどい状態で、ペニシリンがまったく効果がなかったことが分かりました。
それでもデキサの力で牛は一見調子がよさそうに見えるのです。それだけ強力な薬であるとも言えますね。

大切なのは薬を切るタイミングです。

「41℃を超える熱がある、明らかに死にそう、とにかく不安」という状態であれば、抗炎症剤を使用するのはまったく問題ありません。牛が死ぬ不安を抱えながら1日過ごすよりはずっと良いです。でも、翌日調子が良くなっていれば、抗炎症剤を中止し、抗生剤メインの治療をします。それで状態が良いままであれば、同じ薬を使えば良いですし、悪化すれば別な抗生剤に切り替えていきます。

「病巣から病原体を分離し、その病原体に感受性の高い抗菌剤を選択して投薬を実施する」
というのがもちろん理想です。しかし、現場では治療対象牛すべてにそれを実施していくのは不可能です。そのため、投薬して確かめるという作業を取らざるを得ません。

抗炎症剤をうまく使って(使うべきときに使い、切るべきときには切る)、牛さんを1日でも病気の苦痛から解放してあげましょう。

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