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松本大策のコラム
ナックリングと骨軟症の見分け方

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2019年6月24日

 みなさんは「ナックリング」とか「突球」とか言う言葉を聞いたことがありますか?
繁殖農場の方は、ご経験なさった方もいらっしゃるのではないでしょうか?

 子牛の脚が曲がっていて伸びない、という事で相談を受けることが多い病気(といっていいのか、「状態」という方が正しいのか、僕にはよく解らないのですが..)です。子牛でナックリングと言えば、球節が屈曲側に曲がった状態のことが多いのですが(写真1)、最近では前手根関節(前の膝)も屈曲側に曲がった状態の子牛の相談もよくお受けします(写真2)。


写真1:子牛のナックリングsemanticscholarのHPより


写真2:子牛のナックリングGLACIER farmmediaのHPより

 しかし、ご相談の中には「ナックリング」ではなく「新生子牛の骨軟症」や「変形性関節症」の誤診であるものも、かなりの割合で含まれています(写真3)。


写真3:新生子牛の骨軟症

 見分け方としては、「ナックリング」は脚を曲げる屈腱の短縮症ですので、球節と前膝が同じ方向へ曲がっているのに対して、「子牛の骨軟症」の場合、前膝は屈曲側に曲がっているのに、球節は沈下している、ということ。
 それから、「骨軟症」では、手で押すと普通の角度に戻ることが多く、「変形性関節症」では戻らない、「ナックリング」ではゴムで引っ張られているような感じでやや弾力を持って反発します。

 屈腱短縮症の場合、以前は縮んでいる屈腱を切断したり、斜めに切ってずらして繋ぎ合わせる方法(図1)やギプス固定がよく行われていました。


図1

 しかし、結果があまり芳しくなかったので、現在シェパードではそれらの方法は採っていません。うちで最初にやるのは、タンパク同化ホルモン剤(現在、販売されているのはプリモボラン錠かレボスパしかありません)と肺炎後処置です。これで数日で改善することが多いです。
 変形性関節症も、かなり高率に(統計くらい取っとけ!っていわれそうですね(^_^;)変形が治ります。と、いうことは「診断がちゃんと付いて無くても同じ処置でいいんかい!」って事になりますね。でも、診断はきちんとつけておかなければ、発生率次第では、原因究明や対策を打たなければならなくなりますので、「診断」といいうのは最初にきちんとつけるべきだと考えています。

 重度のナックリングの場合は、上記の処置で対応できないケースもありますので、その際は、屈腱を切断するのではなく、浅指屈腱(尺骨と足首の中節骨を繋ぐ腱)と深指屈腱(尺骨と足首の末節骨を繋ぐ腱)という2本の腱(図2)を繋いでいる靱帯を切除して、2本の腱を遊離させる、という方式が有効です。


図2:屈腱

 でもこのあたりは、獣医さんに頼んでやってもらわないといけませんから、日頃から意思疎通を図って良好な関係を保っておきましょうね。

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