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松本大策のコラム
中国輸出の可能性と中国経済 その3

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2019年5月17日

 さて、気になる牛肉の消費動向です。これもただの僕の肌感覚ですから、統計と呼べるシロモノではないのですが、僕のコンサル先が展開する高級焼き肉店「牛道」(写真)では、この2年ほどで客入りは変わらないものの、客単価は20~30%低下しました。これは「牛道」に不満があっての事ではありません。実際、同じショッピングモールの他のレストランは、ほとんど閉店してしまっているのです。

 この原因は、習近平さんが権力集中のために「クリーンな政治」の名の下に、いわゆる官官接待の禁止を強力に推進した事、役人の妻名義の会社なども取り締まった事などで自分の懐の痛まない「税金」での接待が禁止されてしまったからです。
 これは、過去の日本の轍を完全に踏んでしまったと思います。日本でも、官官接待が禁じられてから、高級牛肉や高級魚などが売れなくなり、お金が世の中を回らなくなってしまいました。ですから、僕は「官官接待復活法」を制定するべきだと、過去のコラムにも書いたのです。
 横道にそれましたが、景気の減速が顕著で、政治もそういう状況ですから、牛肉に対して支払われる対価はどんどん低下しています。

 さて、それでも中国に和牛肉を輸出したいとするなら、中国人の食習慣や、好む牛肉部位を知っておかなければなりません。
 まず、中国では、牛肉は硬いもの、煮込むもの、という感覚が強く残っています。一部の高所得層は、ステーキや焼き肉も食べますが、大半は「煮込み料理」なのです。以前、お世話になっている友人宅に、僕のコンサル先の牧場産の高級ステーキ肉を、15,000円分買って持って行った事があります。その友人のお母さんは、いきなりステーキ肉をぶつ切りにして醤油の入った鍋に投げ込みました。僕の落胆は解ってもらえますよね(涙)。

 部位的にはどこが好まれるかというと、まず高値が付くのはヒレとサーロイン。こちらは一部の高級ステーキ向けです。中国では「しゃぶしゃぶ」という料理は、「火鍋」というくらい唐辛子と山椒(日本の山椒とは全く違います。メッチャしびれる辛さで、少し食べ過ぎると夜中におなかが痛くて寝てられないくらいです)の油が数センチ浮かんだスープでしゃぶしゃぶして、芝麻醤(ゴマをすったタレ)などをつけて食べます。

 ですから、使うお肉は安いものや山羊が多いのです。以前、日本式のしゃぶしゃぶを試験販売したのですが、全く不評でした。すき焼きなんか見かける事もありません。ですから肩ロースやリブロースは全く売れないのです。
 日本では焼き肉やステーキでも食されるモモの高級部位(ランプとか内モモとかシンタマとか)は、煮込みの材料という認識ですから、売れても値は付きません。かえって、スネやウデの方が受けると思いますが、もうけの出る商売にはならないでしょう。

 中国では、1頭分のセット販売は成り立ちません。そういう商習慣なので仕方がありません。それから、仮に和牛肉の輸入が解禁されても、おそらくは政府にお金が入る国営企業が独占するだろう、というお話をあるお役人から伺いました。

こういう事情で、僕の感覚では中国を商売相手とするのであれば、リスクマネージメントをしっかりと行った上で、かなり相手の消費動向やターゲットとする消費者層を研究しなければならないのではないかと考えています。

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