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松本大策のコラム
シコリのお話 その3~正しい皮下注射の打ち方【補足】~

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2019年4月5日

 前回のコラムの文章が少し解りにくかったので補足です。

 前回は、注射の打ち方のミスでシコリになる可能性についてお話ししました。

 肩に注射する場合、筋肉に針が刺さると、その筋肉は「僧帽筋」つまり「カブリ」にあたります。筋肉は傷害を受けると、いろいろな反応を示します。まずは「炎症」、続いて炎症の最終段階に当たる「結合織の増生」によって筋肉の機能を回復させるケース。こちらは硬いスジに変化しますから、範囲が広くなると、やはり食肉としては不都合です。こちらもシコリとして扱われます。

 最近問題となっている「脂肪置換症」は、どういう反応かというと、傷害を受けた筋肉の細胞が萎縮してしまい、そこを「脂肪組織」が埋め合わせする「補腔肥大」という現象です。
 去勢したあとの陰嚢は空っぽなのに、次第に元の大きさに膨らんでくるのも脂肪組織による補腔肥大の一例です。

 つまり、肩に注射する際に筋肉注射をしてしまうと、カブリ(僧帽筋)を傷つけてしまい、筋肉細胞が萎縮変成し、そこを脂肪組織が代償的に「補腔肥大」したものがカブリのシコリ(脂肪置換症)だと思うのです。ロースのシコリは、人間で言う「肉離れ(筋断裂)」の傷害を脂肪組織が補腔肥大したものではないかと考えています。

 実際、シコリの多い農場で正しい皮下注射の打ち方を指導すると、シコリの発生がなくなります。

 それでは本題の「正しい皮下注射の打ち方」に移りましょう。
 まず、注射器は写真1のように必ず針の付け根を持ちます。


(写真1)

 決して写真2のような握り方をしてはいけません。


(写真2)

 次に、肩甲骨(羽子板みたいな骨)のすぐ前の部分を左手でつまみます。そこに根本をもって注射針を刺します。針の根本を持った親指と針の間で、左手でつまんでいた皮膚をしっかりつまみます。そして、針先が筋肉に入っていないか引っ張って、確実に皮下に入っているようにします。

 こうすると、あとは牛さんが暴れても、皮膚と注射器を一緒に握っているので、牛さんを傷つけません。あとは、常法通りピストンを引いて、空気や血液が入って来ないことを確かめたのちに注射液を注入します。

 文字では分かりにくいかもしれませんからビデオを載せておきましょうね。

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