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松本大策のコラム
お肉屋さんからクレームの付いたお肉特集~2.肉割れと血だまり~

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2019年3月29日

「うちの牧場から出荷した牛のヒレですが、販売先のお客様より『3割は使用できたが7割はもう腐って廃棄にした』とのクレームが発生しました。はじめてのことですので原因を教えてください。」という連絡を受けた症例です。

 牛さんの成績自体はA-4でまずまずだったのですが、身割れと血の塊があり、血液がしみていて一部(かなり?)が、使用できない状況だったとのことでした。

 先方も大変紳士的で、自分たちの熟成時のハンドリングなどに問題があれば改善したいとのことで、丁寧にご連絡をいただいたようです。先方からは、「身割れが起きていたことによる瑕疵があったのか、また、どれくらいの頻度で起こることなのか、についてご確認いただけませんでしょうか。」という問い合わせがあったそうです。

【原因の考察】
 まず、ヒレ肉の部位について考えてみましょう。この筋肉は、大腰筋といって、背骨と股関節を繋ぎ、股関節を内側に占める働きをします。


(人間のだけど大腰筋)

 股関節というと、股裂きの時にその周囲の様々な部位を損傷します。よく見かけるのが、股関節脱臼や大腿骨骨頭骨折、それから内転筋(こちらは大腿骨と骨盤を繋ぐ筋肉)の断裂。これらが起こると、たいていの場合、牛さんは起立不能に陥ってしまいます。のんびり構えていると「痛み死に」といって死に至るケースもありますし、内転筋周囲からの出血が、ロースやバラまで筋肉の間を通って染みていき、肉の価値を損ないます(九州では「血が走る」といいます。)

 今回のケースでは、出荷時点でも外観からは特に異常が無かったとのことですから、股関節周囲および起立に関する重要な内転筋は損傷しないで背骨と大腿骨を繋ぐ大腰筋だけを損傷したために、歩様でも気がつかず、しかし大腰筋には筋断裂と内出血が起こったのではないかと推測します。人が気づかない程度の側方、もしくは後方への股裂きをしてしまい、自力で起立出来たものの、大腰筋(ヒレ)には大きな損傷が残ったのではないでしょうか。

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