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松本大策のコラム
お肉屋さんからクレームの付いたお肉特集~1.異常臭のする肉~

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2019年3月25日

 僕は、牧場のコンサルも多数お引き受けしていますが、その業務の中に「牧場産の牛肉に異常があった場合のクレーム対応」というものも含まれます。個人で肥育経営をなさっていらっしゃる方も、そういう経験はあると思いますので、いくつかご紹介したいと思います。

1.異常臭のする肉
 これは、加工工場まで自社でもっている農場からお得意様に出荷したパック肉で、「プラスチックのような変なにおいがする」という苦情が寄せられました。

 問題牛肉は、通常品と比較すると肉色が浅く、また黄色みの強い「ムレ肉」のような肉色でした。生で試食すると、後味として鼻に残る臭いは発泡スチロールなどの様な合成樹脂臭を感じ、酸味も通常品と比較すると明らかに強い印象でした。

 試験的にしゃぶしゃぶにして食べてみたところ、発泡スチロールのような異常臭気はさらに強く、酸味も強調されて牛肉としては旨味が全く感じられませんでした。元々肉質や脂質には評価のある農場だったので、早急に原因究明して顧客の不満に対応しなければなりません。

【原因の考察】
 肉色の退色化(色が浅い)や酸味の強さなどから考えられることは、屠畜前に牛が異常に興奮して、通常よりも大量のグリコーゲンの解糖発酵が起こったのではないか?ということです。

 お肉には、運動のためのエネルギー源として「グリコーゲン」というお砂糖の仲間(といっても無味無臭です。お肉の「甘み」は、グリセライドという脂肪の甘みなのです)が蓄えられていて、屠畜するとグリコーゲンが「解糖発酵」という分解を受けて「乳酸」という「酸」に変化します。これによって筋肉が酸性化することで、筋肉中のミオグロビンという暗い赤色の色素に酸素分子がくっついて「オキシミオグロビン」という明るい発色をするのです。

 今回のお肉は、牛さんが屠畜前に異常に興奮して筋肉の収縮とそれにともなう急激なグリコーゲン分解が進んだため大量の乳酸が発生したこと、筋肉の異常収縮により発熱量も多かったために、いわゆる「ムレ肉」となっていたと推測できます。この発生した大量の乳酸が酸味の原因で、かつ乳酸によって酸性化した牛肉が包装資材の臭気を溶出・吸着したものではないかと診断しました。

 取引先には対策として、「出荷牛の屠畜前のストレス管理を現在以上に注意し、屠畜前の異常興奮を防ぐことにきをつけることと、ストレス軽減作用のあるGABAを含むモラフィットの投与を実施します」とお伝えして納得していただきました。

つづく

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