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笹崎直哉のコラム
膿瘍について考える ~番外編 お腹に異様なデキモノ~

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2019年1月29日

 皆様お疲れ様です。前回で膿瘍のお話は終了のはずでしたが、あと1症例だけ紹介させて下さい(図々しくてごめんなさい)。

 肥育農家さんより「去勢牛のお臍の近くに変なデキモノが、、、」ということで、伺いました。10cmほどの腫瘤が乳頭の近くでぶら下がっておりました。今まで出会った腫瘤の中で、とても珍しい場所にできていたので正直ビックリしました。牛さんは特に熱もなく、元気と食欲良好。つまり全身症状が出ていないパターンです。

 腫瘤は固く、内部に液体を満たしているような波動感もなかったため、除去することになりました。出血や汚染に細心の注意を払いながら、慎重にメスを入れていきました。すると意外にも腫瘤の摘出がすんなりとでき、出血も軽度。そのまま縫合に入りました。ナイロン糸で2糸の水平マットレス縫合で完了です。

 問題の腫瘤は膿瘍臭が漂っており、メスで切開すると一部膿汁が混入していたものの、ほとんどが固い結合組織になっておりました。

 以上より、皮膚の内部かさらに深部で発生した膿瘍の病巣が牛さんの自浄作用で長く戦い、外へ外へと排出機構が働いた結果なのではないかと笹崎は予想しています。もう一つの推測としては今回の場所とは別の場所で発生していた病巣から一部血行性に飛んだのではないかと考えています。今回の白い結合組織は病巣と牛さんの血液が長い戦いの後、産生したものと判断しました。私の下した診断名は化膿症ですが、経過は長かったものと考えています。
 なお10日後には縫合を施した患部は、新たな組織が進出し、綺麗になっておりました。やっぱり牛さんの回復力は素晴らしいです!

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