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松本大策のコラム
銅欠乏症のお話

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2018年11月5日

 最近、いろんなところでコンサルテーションの時に銅欠乏症の相談をお受けするようになりました。たいていのケースでは、「毛が抜けてしまった(写真1)」とか「毛の色が白っぽくなってきた(写真2)」というものです。


写真1-1


写真1-2


写真2-1


写真2-2

 こういうときはまず銅欠乏症を疑い、血清銅を測定します。亜鉛などは「血液中にどのくらいあるのか」がよく解らないので、体毛の中の亜鉛分を測定するのですが、銅の場合は血清中で解るのです。それから、もし可能であれば「セルロプラスミン」というものも測定します。これは、肝臓で合成される「銅を輸送するためのタンパク質」で、これが不足していても、身体の中の銅が運ばれないので銅欠乏症の症状が現れます。

 たくさんの群れの中で1頭だけ発症する場合は、肝臓のセルロプラスミンを合成する力が弱ったためか、強いストレスがかかっているか、亜鉛を大量に(ドン八ヶ岳の50g/日×30日程度では起こりません)与えすぎて銅の吸収を阻害しているか、のケースが多いです。ドン八ヶ岳の他に銅を含むミネラル剤を知らずにいくつか併用してしまった(;゚ロ゚)、なんて場合には起こりえます。
 
 
 
 牧場内の牛群にたくさん、たとえば「繁殖牛全体に被毛退色の牛がでた」なんて場合は、銅の不足か銅の吸収不足を疑います。

 皆さんに気をつけていただきたいのは、「発酵が悪くて蒸れているサイレージ(ヒートダメージ品といいます)」を与えていた場合です。この場合、サイレージに含まれる銅(元素記号はCuです)の含有量は、正常なサイレージと変わらないのですが、サイレージを食べたときに溶け出て吸収される銅の量が極端に少なく、結果的に銅欠乏に陥ってしまいます。
 こういうケースでは、サイレージを良質なものに変更するのが最優先ですが、個体で発生した場合も、群全体で発生した場合も、銅を補ってあげなければなりません。通常は、いつもお話ししている肺炎後処置を実施し、ドン八ヶ岳を給与していると治ることが多いのですが(写真3:写真1-1の処置後3ヶ月)、重度の場合はやはり亜鉛を含まない、銅単独のミネラル剤を与えてあげた方が安心です。


写真3

 人間の場合は、銅欠乏の処置としてエネーボなどの経口剤や注射剤を使用するのですが、その場合、最大日量3.2mgのCuを給与します。牛の体重を約600kgとして、人の10倍を給与量とした場合、日量32mgのCuを与えることになります。人で使うエネーボの成分である硫酸銅をもちいた場合、硫酸銅1g中Cuとして385mg含有するため、32mgのCuを与えるためには日量0.083gの硫酸銅の給与となります(ややこしいから読み飛ばしていいですよ)。
 この量はきわめて微量で給与するのも大変ですから、一般ふすま3kgに硫酸銅10gを混合して(ビニール袋に入れて空気とともによく攪拌する)、その配合物を1頭1日25g飼料添加する方法が使いやすいと思います。3週間ほどの給与で家畜保健衛生所などに再検査を依頼し、改善度をみながら給与を持続するか、ドン八ヶ岳ADEへと切り替えるか検討しましょう。

 それから、個体で発生している場合でも、ヒートダメージを受けたサイレージで発生している場合でも、肝臓に負担がかかっていることが多いので(実際、群で多発したケースでは、肝臓障害時にみられる、体表のかゆみが強くみられました)、リカバリーMなどの給与で肝臓をいたわってあげることも効果的です。

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