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松本大策のコラム
冬を前に輸血について思う

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2018年10月19日

 みなさん、つい先日まで暑さで牛さんがバテて..とか、台風が来るから、畜舎の整備を考えなきゃ、とか言っていたと思ったら、もう季節は秋まっただ中。早くも11月の声を聞くようになりました。11月といえば、僕の経験では初旬からRSウイルスの流行が始まります。それから、冬から春先に向けて、ロタウイルスやコロナウイルスによる子牛の下痢で死亡する例も毎年多発します。

 今挙げたこれらの病気の共通点は「ウイルスによる病気」だということです。ウイルスには効くお薬がありません。そして、ロタウイルスやコロナウイルスでは、下痢が始まってから急速に子牛が弱り、低体温や脱水症を併発して死に至るケースが多く見られますし、RSウイルスでも劇症例では口から血の混じった泡を吹いて(出血を伴う急性肺水腫)死亡する例もありますし、ウイルス性の呼吸器病(肺炎)では、そのままでは細菌やマイコプラズマによる二次感染を起こして、やっかいな慢性肺炎へと移行してしまいます。

 こういうウイルス性の病気には、「免疫」で対抗するしかないのですが、その子牛が発症しているということは、免疫が不足している(お母さん牛が免疫を持っていなかったか、初乳の量や初乳を飲ませる時間が遅かったか、が最も疑われます)ので、補液などで子牛の体力を補ってあげても対抗しようがありません。

 そういうときに劇的に効果があるのは、免疫を持っている牛さんからの「輸血」です。
 輸血は、免疫だけでなく水分や栄養、酸素運搬能力なども一緒に高めてあげられるので、大変効果的です。これまでの経験でも、目玉が脱水で落ちくぼみ、体温も35℃を割って起立どころか瞬きもしない子牛が、翌日には立って歩いてくれる、という嘘みたいな効果をとても多く経験しています。

 もちろん、輸血で病気をうつしたり、ほんとにまれ(僕は経験ありません)にショックを起こす危険などもあります。しかし、そのままでは死に至る子牛が助かるのであれば、そのリスクは許容できると考えています。もしも、その子牛が雌で、繁殖牛に使いたいというのであれば、繁殖供用前に検査すればよいのです。僕は輸血の時は、採血した血液に7%重曹注を100mlほど混ぜ、またデキサメサゾンも1mlほど入れます。これでいままでショックは起こしたことはありませんし、輸血中は万が一のショックに対応するためにデキサメサゾンとアドレナリンを用意しています。

 ただ、一つクリアにしておきたくてこのコラムを書きました。
 それは、農水省の見解は「輸血は薬事法、獣医師法、獣医療法上、きわめて黒に近いグレーゾーン」だということです。
 僕はこの見解には大いに反論があります。というのも、こと「食の安全」に対して、輸血は薬剤以上の危険性はないと考えられること、抗生物質使用の見直しが図られる中で、その必要性を減らすには、輸血による免疫向上が大いに役に立つこと、が事実だと考えているからです。

 より安全かつ農家の経営を安定させるためにも、抗生物質の規制のように「規制ありきではなく、使用量を減らすための方策」を提示していただきたいと思う次第です。それも、より安価で身近なものを使いたいのです。抗生物質の使用制限を商機ととらえているメーカーもあるかもしれませんが、農家がなくなっては元も子もありません。

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