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松本大策のコラム
食欲の秋 !

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2018年10月1日

 みなさんのところは、台風の被害はありませんでしたか?
 僕は明日から沖縄の農場に向かいますが、今回の台風は滞在時間も長く超大型でしたので、牧場の仲間たちや牛さんの被害が心配です。

 しかし、台風だけに気を取られているわけにはいきません。「台風一過」の言葉通り、秋の台風の後は天候も回復し晴天と涼しい気候になることが多いのです。季候は良いのですが、やはり季候が良くなると食欲が増すのは人間も牛さんも同じ。

 ただ、1つ違いがあるのは、人間は胃袋が1つで、デンプンの消化の際にはすべて消化酵素によってブドウ糖というお砂糖の仲間のもっとも小さなものに分解して腸から吸収するので、よほど食べ過ぎてもダイエットが失敗するくらいの危険しかありません。

 それに対して牛さんの場合は、デンプンを第一胃の中の細菌の働きで、乳酸→プロピオン酸という順番に分解して「第一胃の壁」から吸収します。ですから、第一胃の酸の吸収力よりも食べ過ぎて「酸(乳酸→プロピオン酸)の発生量が上回ってしまうと、第一胃の中に「酸」が溜まって酸性化していきます。

 酸は、弱いバイ菌を殺してしまいますからデンプンから発生した乳酸をプロピオン酸に変換する「プロピオン酸産生菌」が死んでしまうと、デンプンから発生した乳酸がさらに溜まってきます。カルピスなどで有名な乳酸ですが、実は、とても強い酸で第一胃内はさらに酸性化が進んでいきます。

 これを「ルーメンアシドーシス(ルーメンは第一胃のこと、アシドーシスは酸が多すぎること)」に陥り、しまいには、大腸菌とかの悪玉菌まで殺してしまいます。悪玉菌が死ぬのは良いことのようですが、これらの悪玉菌は、死ぬときに「エンドトキシン」という毒素を放出したり、他の悪玉菌も外毒素を放出したりします。この毒素は、肝臓を痛めたり、筋肉水腫の原因になったり、蹄病の原因になったりします。

 ですから、季候が良くなって食欲が改善したときは、慎重に増飼すること、イナワラなどの粗飼料や発酵ビール粕などを添加して、発酵速度を落としてあげること、アースジェネターなどの生菌剤を与えて第一胃内の発酵を整えてあげること、などの注意をし、日々の便の性状や牛さんの元気、目の輝きなどを観察しておきましょう。

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