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笹崎直哉のコラム
腎臓と造血~エリスロポエチン~

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2018年8月14日

 先日、腎炎を起こしているお母さん牛に出会いました。一言でまとめると非常に勉強させてもらった牛さんです。分娩を終えたばかりの牛さんでした。診断名を腎炎と判断した根拠はいくつかあるのですが、まずは排尿が頻回で一回一回が少量であること、また排尿時に尾を上下に動かし痛そうにすることが挙げられます。また血液検査においても

BUN 74.5 mg/dl、クレアチニン6.23 mg/dl

とかなり数値が上がっていましたので、この時点で腎炎、膀胱炎、尿石症を疑いました。さらに直腸検査では膀胱の張りや移行上皮の肥大、膀胱内のゴロゴロした尿石は確認できなかったものの腎臓に触れ、違和感を覚えました。通常のサイズと比較してみても、明らかに肥大した腎臓をだったので、エコーを持ち出し描写してみることに。

すると腎盂が拡張しており、水腎症に似た所見になっていました。この段階で腎疾患と推定しました。ここで重要になってくるのが貧血をどの程度伴っているのか?というところです。腎臓は大切な造血組織としての役割を担います。尿細管間質細胞でエリスロポエチンというホルモンが産生されるのですが、これが重要な造血因子になるのです。貧血の分類で、腎性貧血とされる場合はこのエリスロポエチンの低下が疑われる場合を指します。今回の牛さんにおいても採血時に肉眼で分かるくらい健康な牛さんよりも血液の色調が明るく、薄い血液となっていました。

血液検査でも赤血球数 350万 /mcl、ヘモグロビン値 6.1 g/dl、ヘマトクリット値 19%と低値を示していました。しかし驚くべきことに牛さんはというと食欲はさほど問題なく総コレステロール値は110 mg/dl。慢性経過をたどっているのでしょうか。いつ状態が悪化してもおかしくないので注意が必要ですが、今回の牛さんを治療し経過をみていくなかで、再度血液検査する場合には貧血の推移も注意していきたいと実感したところでした。

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