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笹崎直哉のコラム
往診電話が鳴るときに感じること

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2018年4月3日

 皆様お疲れ様です。最近つくづく感じるのは往診の電話をもらったときに農家さんの声のトーンや伝え方といった「雰囲気」でどのくらい牛さんの状態が緊急性であるのかを予測できるようになってきた笹崎です。残念ながら自慢話のように書いておりますが、これといって大した内容ではありません。例えば先日深夜に難産で呼ばれたのですが、普段穏やかな性格の方で牛さんの状態や気になる症状を細かく獣医師に伝えてくれるのに対して今回は特に早口で「先生、急いできて!頼むよ!」とのこと。「おや?これはまずいぞ」と察した笹崎は「わかりました!すぐ伺います!!」と眠い目をこすりながら車を走らせました。到着後お母さん牛の状態を確認したところ寝転がっており、外陰部を見てみると胎子の頭と前足がすでに出てしまっている状態でちょうどスソの部分に胎子の首があり、肩が出てこれずロックが掛かり首が絞まっている状態でした。さらに赤ちゃんの体勢も特殊で前足はいつものように出ているのですが、左足は完全に産道の中で屈曲しており、いわば自由の女神のような状態でした(ちなみに男の子でしたから女神ではありませんね 汗)。赤ちゃんは辛うじて瞬きをし、舌も動かしていたので生存していたのですが、顔はパンパンに腫れあがりお母さん牛も陣痛に耐え切れず疲れ切っている様子。農家さんも焦りが顔に出ており完全なる「ピンチ」状態でありましたが、「大丈夫ですよ。落ち着いていきましょうね~」と声掛けしていざ整復に取り掛かりました。当時私のなかで抱いていた整復イメージが

① 胎子の頭を子宮内の方向に戻していく
② 産道が広くなってことを確認
③ 肝心の屈曲した右足を伸ばし外に出す
④ ここではじめていつものように両足と頭を産科ロープで縛る
⑤ 滑車で娩出
⑥ お母さんの状態チェックと胎子の蘇生

であったのですが①の行程がうまくできず、少し粘りましたが時間の経過が怖かったので断念し、もう一本余っていた産科ロープで肝心の屈曲している右足の膝関節を縛り産道内が狭いスペースだったのは分かっていたのですが農家さんとゆっくり引っ張っていきました。するとスパンと右足が伸びスソから出てきてくれたので、安心しながらゆっくり胎子全体を娩出。疲れてはいたものの赤ちゃんもお母さんもなんとか無事でした。疲れが一気に吹き飛びました。

振り返ってみると子宮平滑筋の緊張を取り除いてくれるプラニパートをお母さんに注射しておけばもっと楽になっていたのかもしれないと反省すると同時に常に冷静に対応すること、本当に大事にしていかなければなりません。毎日勉強させてもらっている笹崎でした。

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