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蓮沼浩のコラム
第509話:よいこ

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2018年3月1日

 出張からもどるとカミさんが「お・・・・お・が・え・り~、ゲホ、ゲホ!!」と強烈なお出迎えをしてくれました。家族のインフルエンザは落ち着いたといっても、なかなかすっきりは治りにくいようです。感染の恐怖におびえる生活がスタートです!

 先日戸田獣医師と笹崎獣医師が逆子の帝王切開をしたとの報告がありました。そういえば冬場だから難産が多くなるな~~などと思っていると、お産の電話。現場に行くと、超デカい子牛の逆子です。ちょっと滑車で引っ張ったけど、これは出ないとすぐに判断し、帝王切開に切り替えます。しかし、ここからが大問題。この母牛は「蹴られたことがない人はいない」というぐらい、札付きの暴れ牛。獣医さん、授精師さん、技術員さんなど何人もやられています。最初は立位左膁部切開で行こうと思ったのですが、暴れに暴れて大変です。まずは挨拶代わりに小生、軽く2、3発蹴られます。留置針の設置だけでも一苦労。目隠しして、塩酸クロンブテロールを入れて、尾椎麻酔入れて、何とか毛を剃って、塩プロでラインブロックをしようと針を刺した途端、思いっきり強烈な蹴りをくらい、小生悶絶。左脛にφ8cmの打撲傷をいただきます。笹崎先生に応援に来てもらっていたのですが、牛舎は狭いし、大暴れするし、牛を倒すこともできないし、しばしば農家さんと三人でボー然となってしまいました。ここまで蹴りまくり、暴れる牛さんも珍しいです。あの~~あなたはお産中なのですが・・・・・。

こ、これでは手術が出来んわ~~~

綺麗な手術室があり、しっかりと牛さんを固定できる手術台があれば良いのですが、もちろんそのようなものはありません。今回はもうしかたがないので、普段は絶対に行わない母牛に鎮静剤を投与して手術するという方法に決めました。キシラジンという鎮静剤を投与すると、お腹の中の赤ちゃんにも鎮静剤がかかってしまい、いわゆる「スリーピング・ベビー」という状態になるので普段は産まれてくる子牛が心配なので使用しません。しかし、今回はそんな事言ってられないので、尾椎麻酔をガッツリ入れて、鎮静剤をガッツリかけて、座らせた状態での手術。すぐに開腹して子牛を引出します。子牛は呼吸が弱いので呼吸興奮薬を投与し状態をみます。その間に子宮や腹膜、筋層の縫合と進めていくのですが、やはり子牛の様子がおかしいです。産まれてきてすぐなのに、明らかに活力がなく、寝ているような状態です。ここですぐに笹崎先生がドミトール拮抗注射剤を投与。ホントに薬の力はすごいです。投与したとたんに子牛の目が覚めて、いつものような元気な子牛に早変わり。お母さん牛は縫合している最中も、何度も意識朦朧となりながら夢の中で小生を蹴ろう、蹴ろうとしています。いや~鎮静剤かけてなかったら、半殺しにされていますね(汗)。

 何とか無事手術も終わり、左脛と右膝にしっかりと打撲傷をいただき、笹崎先生と農家さんと三人とも疲労困憊しましたが、母子ともに元気な姿をみると、本当によかったなあと心から思います。

ちなみに、この母牛の名前は 「 よいこ 」 です。

ただ、ただ、笑うしかありません(笑)

あ、足痛て~~~~

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