(有)シェパード[中央家畜診療所]がおくる松本大策のサイト
蓮沼浩のコラム
第501話:抗菌薬の投与期間 その2

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2017年12月28日

 出張中に取り組んでいる”キャベツとニンジンの丸かじり”を今回の出張でも実施しています。前回はキャベツとニンジンに味噌をつけて食べていたのですが、大量に味噌があまり、ほぼ95%以上残っている味噌を無理やり宿屋のおばちゃんに寄付することになってしまったので、今回は胡麻ドレッシングを使用。非常にいい感じでご機嫌で食べていたら、ふと12月24日であることに気が付きました。まあ、小生のようなおっさんには関係ないことなのですが、クリスマスケーキがキャベツとニンジン。「ウサギか!!」と一人でツッコミを入れた後、ちょっとシュールな気持ちになりました。家族のみんなは元気にしているかな~~。おとーさん、キャベツ食って頑張ってるよ~~。


 
 
 学生時代、家畜病理学の試験勉強で「肺炎の治癒過程を説明しなさい」などという設問があり、必死になって覚えていた記憶があります。

 簡単に説明すると、まず肺炎に罹患すると、「充血水腫期」という時期になり、肺炎を発症している部位が炎症を起こして水腫状になります。バクテリアと肺の戦いがスタートです。次に「赤色肝変期(せきしょくかんぺんき)」。肺胞内に出血が起きたり、繊維素が増加したりして、外見上肺の一部が肝臓のようになります。バクテリアと白血球の壮絶な戦いが繰り広げられています。肺炎の牛を解剖して肺を見てみると、確かに真っ赤になって肝臓のような外見になっている肺葉をしょっちゅう見ることができます。獣医さんはそのような肺の状態を「肝変化(かんぺんか)」しているなどと表現します。そして出血や炎症がおさまってくることで、「灰白色肝変期(かいはくしょくかんぺんき)」という状態になり、最後に「融解期」に入り繊維素融解がおこり、肺炎が治癒していくという内容でした。

 ここだけ読むと、なるほどこのようにして肺炎は治るんだと思ってしまいます。しかし、実は非常に重要なことが抜けています。牛さんの場合、一度肝変化してしまった肺の部位は、肺胞が再生して元の状態に戻ることが非常に難しいということです。先日鹿児島大学の先生とお話をしていた時に、先生が仰っていました。
「牛の場合、一度重度の肺炎にかかった部位はもとにもどらないよ~。CTで何頭も検査したけど、外見上治ったように見えても、肺のやられた場所はCTで見てみるともとに戻っていないし、ガス交換はできていないよ~」
とのこと。何頭も肺炎で死亡した子牛や肥育牛の肺炎の状態を見ている小生としても納得です。実は肺炎に侵された肺の部位は結合組織などで覆われ、密封された状態になっているのです。膿瘍が出来ている場合なども当然膿は残って、乾酪壊死(かんらくえし)というチーズのような状態になっている場合もあります。残念ながらガス交換はできていません。そして、牛さんが成長するにしたがって肺の大きさが大きくなり、正常な部位の肺組織が増えてくることでガス交換できる場所が増えてくるのです。ダメになった肺の部位が相対的に小さくなっていく感じですね。

 小生はとにかく肺炎の治療の場合、何とか肺の正常組織が残っているところが侵されないようにと思ってがんばって治療を行います。そして、灰白色肝変期になり、融解期を経て発熱などの症状が治まる時をいつも願って戦っています。ちなみに肺炎の流れとしては充血水腫期は1~2日、赤色肝変期は2~4日、灰白色肝変期は4~8日、融解期は7~10日と言われていますが、これは早期発見した場合。牛さんで言えば軽度の肺炎の時になります。基本的には小生達獣医師は赤色肝変期など、とっくの昔に通り過ぎて思いっきり肺膿瘍になっている状態から治療がスタートする場合も多々あります。もちろん免疫状態も思いっきり低下しています。早期の肺炎であれば、最低赤色肝変期まで乗り切ればよいので最低3日~6日の治療でいいのですが、聴診器でズーズー、ピューピュー音が聞こえるような重症の場合は最初からある程度の治療期間をやはり考えた方が良いのかな~~~と思っています。

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