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蓮沼浩のコラム
第495話:ノン・リターン法

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2017年11月16日

「お産が始まったからすぐに来てくれ!」との往診依頼で農場に急ぎました。

すぐに小生は農家さんに確認します。
蓮「分娩予定日はいつですか?」
農「知らん!」
蓮「え・・・?じゃあ、種は何をつけてあるのですか?」
農「知らんよ~!」
蓮「ど、どういうことです??」
農「2日前に経産肥育用に買ってきた母牛が突然分娩始めたんよ!!!」

その後、無事娩出

色々と話を聞いてみると、市場から買ってきて餌をあまり食べないので、昨日薬を飲ませていたとのこと。そしたら今日突然お産が始まったとのこと。おそらくお産前なので餌をあまり食べなかったのでしょう。どう見ても普通の子牛を分娩しています。妊娠期間もおそらく正常だと思います。今までに妊娠していない予定の牛が分娩した事例はそこそこありますが、今回のように市場から買ってきて3日目にお産をした事例は初めてでした。

お産の時に小生が見た感じでは、外陰部はしっかりとゆるくなり、乳房もパンパンに大きくなっています。いくらなんでも市場に出す前に気が付きそうな感じなんだけどなあ・・・。買った本人さんも気がついてもよさそうだけど・・・・。
小生はよくわかりませんが、おそらく何かしらの事があって今回のような状況になったのでしょう。それにしても・・・・もう少し注意した方が・・・・。
 
 
日ごろ色々な農家さんで話を聞いていると、意外なことに妊娠鑑定を実施しない農家さんもいると時々聞きます。いや、正確には妊娠鑑定をしているのですが、その方法がいわゆる「ノン・リターン法」というやり方一本なのです。「ノン・リターン法」などとカタカナで書くとすごそうな方法ですが、この方法は種を付けた後に、発情周期を確認して、次回の発情時に発情が来なければ妊娠プラスと判断する方法になります。大体21日と42日目ごろを中心に発情をしっかりとチェックし、発情が来なければ妊娠プラスと判断する方法です。一応獣医さんの繁殖の教科書にも載っているしっかりとした技術です。

小生がお世話になっていた、もう何年も前に離農された高齢の生産農家さんは、非常に「ノン・リターン法」のレベルが高く、15年以上昔にいろいろ教えていただいたこともあります。ポイントはとにかく母牛の外陰部を細かく観察することです。種を付けて、その後の外陰部に生えている毛の角度を細かく観察するそうです。それと、外陰部の腫れ具合、緩み、大きさ、母牛の行動などとにかくしっかりと毎日観察して、母牛をみただけで妊娠を当てるそうです。ただ、この方法は毎日母牛を細かく観察しないといけないので、非常にレベルの高い技術になります。この農家さんはそこまでの高い技術を持っていながら、念のために妊娠鑑定を実施していました。小生はここで妊娠鑑定する時、50日ぐらいでやっていたのですがいつも必ず種は着いていると断言されていました。そして確認すると100%着いていました。鑑定して種が着いていなかった記憶がありません。その時にこの「ノン・リターン法」の極意を教えていただいたのですが、当然ボンクラの小生には外陰部を穴が開くほど見てもサッパリわからなかった記憶があります。

そんなわけで、妊娠鑑定の方法はいろいろあると思いますが、実は一番レベルが高くて難しい妊娠鑑定技術は「ノン・リターン法」だと思っています。この方法だけ、というのはやはり相当難しい技術になりますので、やっぱり獣医さんに妊娠鑑定はしていただいた方が良いと思います。また、何か母牛の状態が気になる時は、コストはかかるかもしれませんが、再鑑定してもらったりした方がいいのではないでしょうか。ヒト様の場合は、妊婦さんは毎月のようにエコーで確認してもらっています。さすがにそこまではやり過ぎですが、市場に牛を出す前や、妊娠牛を買ってきた時、妊娠しているはずの母牛が他の牛に乗った時など少しでも気になる時は、確認してみてくださいね。

教訓1 ノン・リターン法は一番難しい妊娠鑑定法と心得るべし

教訓2 牛をよく観察し、気になる時は再鑑定を実施すべし

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