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松本大策のコラム
肺膿瘍を防ぐ

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2017年9月4日

 みなさん、肺膿瘍ってご存じですか?「なんか、肺炎のひどいヤツだろ?」みたいな認識は持っておられると思いますし、それほど外れでもありません(写真1)。


写真1

 しかし、治療の際に注意しなければ、私たちの治療の結果『肺膿瘍』を作ってしまうのです。最近マイコプラズマが猛威を振るっており、とくに哺育期の子牛での被害が大きいです。

 ここでマイコプラズマのおさらいですが、普通のバイ菌の1/3程度の大きさしかなく、また普通のバイ菌が持っている「細胞壁」という壁を持っていません。どのような抗生物質も得手・不得手があり、どんなバイ菌にも効く、というものはありません。特にマイコプラズマの場合、細胞壁を持たないため、「細胞壁合成」を邪魔するタイプの抗生物質、つまりペニシリン系(専門的にはβラクタム系といいます)のお薬は効果が全く期待できないのです。ペニシリンの仲間といえば、ペニシリンの他にアンピシリン、セファゾリンなどがあります。ですから、マイコプラズマの治療や防除には、それ以外でマイコプラズマに効果のある抗生物質を使います。

 ここでご注意願いたいのですが、最近マイコプラズマ対策によく使われるのが、フロルフェニコール系抗生物質(フロロコールなど)とニューキノロン系抗生物質(バイトリル、マルボシルなど)です。フロルフェニコール系はバイ菌の細胞膜を壊し、ニューキノロン系はバイ菌の核を壊す(簡単な説明にしておきます。本来バイ菌は核膜のない原核動物という部類で、DNAの複製をお邪魔するのです。こんなの覚えることもありません。)働きを持つので、まずフロルフェニコール系のお薬で外堀を埋めて(細胞膜を壊して)、その後核を壊すニューキノロン系のお薬を使うのがセオリーです。これらのお薬は、マイコプラズマの防除に大変効果があります。

 また、マイコプラズマだけでなく、肺炎の大きな原因菌であるパスツレラ菌やマンヘミア菌にもとても効果があります。しかし、どんなによいお薬でも苦手な相手がいます。たとえばニューキノロン系のお薬は、化膿菌(緑膿菌とかブドウ球菌とか)をやっつけるのは苦手です。

 ですから、マイコの症状が長引いてニューキノロンを長く使っていると、『菌交代症』といって、日頃はマンヘミアやパスツレラなどのバイ菌に抑えつけられていて、悪さの出来ない『化膿菌』が、他のバイ菌が死滅することによって、トップの座を奪い悪さをすることがあります。これが肺膿瘍の原因となるケースが多い気がします(統計とかも取っていませんけど、現場の感覚です。いい加減だなぁ(笑))。ドラえもんで、ジャイアンが母ちゃんに連れ去られるとスネ夫が代わりに威張り出すようなものですね(写真2)。


写真2

 シェパードでは、マイコプラズマが絡んでいる肺炎などには、やはりフロロコールで2~3日治療した後に、バイトリルなどのニューキノロン系に切り替えるのですが、この際同時にペニシリンも併用するようにしています。ペニシリンは古いお薬ですが、化膿菌にはよく効きます。もしも、マイコはなんとか抑えられているけど、肺膿瘍が多くて...、なんて農場があったら、だまされたと思ってやってみてください。

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