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ゲストのコラム
「舞子ぷらずま☆—牧場の嫁DAYS— 第7回」

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2009年8月4日

[遠い畜産]

和牛業界の景気アップの方法…。図書館で本を読んだり、主人に議論をふっかけたりして、嫁舞子なりに一生懸命考えました。でも、結論から言うと「多面的に取り組むしかないかも」という、スッキリしない答えしか出ませんでした。力及ばず。ううう。でも、考え調べるなかで気づいた「畜産の現場って他の食品よりも消費者から遠い」ことについて、今回は書きたいと思います。
日本の畜産の低迷と展望については、多様な見解が乱立していました。そして、食糧問題や農家再生を考えることを毎日の仕事としている専門家の先生達が著した本ですら、畜産現場の今を正しく伝えているとは言えないものが散見されました。これだけ畜産の現場の努力は知られていない…と思ったとき、そういえば鶏肉や豚肉に関しては完全な消費者側の私、養鶏や養豚の現場のことはまったく知らないわ、と気づきました。消費者には一側面の曖昧な情報しか届いていないことは、和牛に関してだって同じはずです。
「牛にはホルモン剤がたくさん投与されているから、牛乳や牛肉は積極的に食べないほうがよい」という主婦同士の会話を聞いたことがあります。野菜への農薬使用の規制は、比較的周知が進み、有機栽培物も市場に根付いていますが、家畜に休薬期間があることや抗生物質など薬品の使用に制限があることなどは、ほとんど知られていません。TVで見る極上食材のブランド牛は特別枠で、スーパーで売られている和牛肉は、大量生産的に薬品多用で育成されているイメージなのではないでしょうか。消費者の「国産が安心」という声、それは「海外産に比べてきっと安心、日本だからその辺は適当にちゃんとやってるんでしょ」という程度の認識なのかもしれません。それなら安全と確信できたら輸入肉でもOKなわけで、その動機づけのみで見ると、特売輸入牛肉の4倍からの値段は非常に高いものに見えるでしょう。日本人の嗜好と食の安全への期待に沿うよう心を砕き、どれだけの原価をかけ丁寧に育て上げているか、そこが価格に含まれていることは伝わっていないと思うのです。私が小耳に挟んだ主婦の会話の元情報はきっと「アメリカでは牛の肥育に成長ホルモンの投与をしている」ということ。和牛で使っているところは見られず、そもそもアメリカの肉用牛と和牛は、一緒なのはモーと鳴くところだけで、育成方法も品種も目指す所もまったく違っている(どっちがどう、ということじゃなくてね)、大雑把に言うなら大量生産品と職人手作りのようなものだと思うのですが、その辺の理解はおそらくほとんどないように感じられます。
それをアピールするのはもちろん小売業者さんの仕事なのですが、私が思う「輸入肉と和牛の性格の違い」という観点からのアピールや、巷にあふれる「安心安全」というスローガンの根拠となる生産者の努力についての具体的言及もあまり見たことがありません。消費者は「和牛は美味しいけどやけに高い、パックで並ぶまでの経過はよく知らない」という微妙な認識にとどまっているように思います。個体識別番号も生産者の顔写真もいいけれど、それよりももっと知りたいことがあると思うのです。この情報が氾濫する世界、専門家すら「?」なことを書くなかで、正しい情報を発信できるのはもう生産者やそれに携わる現場の人たちしかいないと思います。

(つづく)
著:黒沢牧場 上芝舞子

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