(有)シェパード[中央家畜診療所]がおくる松本大策のサイト
戸田克樹のコラム
第100話「お産は焦っちゃいけませんよね。」

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2016年8月23日

治療を終えて農場を出ようとした矢先、

え????????
ぐったりしてる…。大丈夫かっ!!!!
 
 
スっ…。

って、寝てただけかーーい!!!!!
ときどき、こんなドッキリをしかけてくる牛さんがいるので、夏場は気が抜けません(笑)
 
 
先日、戸田は夜間当番でした。
「陣痛が弱い」
出動です!目の前には晩御飯が!でも、そんなものは泣きながら放置です(笑)

向かった先の農家さんからのお産の電話は初めてでした。
普段は獣医いらずで、きちんと子牛を産ませているところです。そんな農家さんから電話がくるとは…。いやな予感です。

予定日を過ぎて5日目。
1次破水はすでに終わっているのに、あんまり力んでる感じがしないとのこと。
むむむ…。

外陰部から手を入れてみると、尾位上胎向。おしりから出ようとしています。
すでに両足ともに産道に乗っていました。趾間をぐっ!とつまむと足を一気にひっこめました。バイタルは良好です。しかし、まだ頸管はせまく、今ひっぱっても引っかかりそうです。

「逆子???はよださな。死んでしまうが。」

子牛のセリ値が高騰している今、生まれてくる命の価値は非常に大きいです。
お産は農家さんにとっても獣医師にとっても一大事。

だからこそ、焦りは禁物です。

膣壁をマッサージして、お母さん牛に「子どもがでてきてるよー」のサインを送ります。

(産道を傷つけないように爪は内側に折りたたんで、背側をなでるようにマッサージ)
その間にお産用の滑車も準備してもらいました。
しばらくすると、しっかり頸管が開いてきました。母牛の力みも少しでてきました。
子牛もジワジワ外に出てきました。

よし、いける!
その確信が持てた時点で足に結んでいたロープを滑車にかけます。
そして農家さんと力を併せて引きました。

すっぽり!!!

子牛は無事に娩出。少し羊水を飲んでいましたが、経鼻カテーテルで吸いだしてワラでマッサージしたところ、首を上げて頭をふりふり。
元気な女の子でした。めでたしめでたし。

お産はいつも時間との戦いです
「目の前の命を救えるかどうか」。それは冷静な判断にかかっています。

子牛は元気なのか。
頸管の開きは十分か。ひっぱって出そうなのか。はたまた帝王切開に踏み切るべきか。
滑車がいるのか。人手は足りているか。滑車は壊れてないか。
母牛の位置は的確か。つないでいる高さは的確か。途中で座っても首にダメージがこなそうか。引っ張るのに十分なスペースがあるか。
子牛がでてきたときようにワラは敷いてあるか。羊水を吸い出す準備もしてる?
…etc

農場に到着してから、いろいろなことが頭をよぎります。ひとつひとつ、確認していきながら安全なお産をめざします。常に冷静であることが安産には不可欠ですね。

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